先日、ある建設業の社長とランチをしていて、こんなことを言われました。「役員報酬、毎年1000万円もらってるんだけど、使いきれないからほぼ口座に積んでるんだよね。これって正解なの?」
正直に答えると、間違いではないけれど、20年後に同じ判断ができるかどうかは今の選択次第です。
現金で積み続けると、20年後も「数字の上では1000万円」のまま
銀行に預けても金利はほぼゼロ。インフレが年1〜2%のペースで続けば、1000万円の実質的な購買力は20年後に700〜800万円台まで落ちていきます。数字の上では確かに1000万円ですが、実際に買えるものの量は確実に減っている。
これが現金保有の現実です。「リスクがない」のではなく、「確実に目減りしていく」というリスクを静かに取り続けている状態とも言えます。
では、「知っている社長」は何をしているのか。答えは、法人を使った不動産への変換です。
法人で不動産に変えると、何が起きるのか
「不動産に変える」といっても、ここでいうのは法人名義で収益物件(賃貸マンションや一棟アパートなど)を取得するという意味です。個人ではなく、会社が物件を持ちます。
法人が不動産を保有すると、大きく2つの収益が生まれます。
ひとつは賃料収入です。入居者がいる限り、毎月安定したキャッシュが法人に入ってきます。年間の表面利回りが5〜6%ある物件なら、1000万円規模でも年間50〜60万円が積み上がっていきます。
もうひとつは資産価値の上昇です。都市部の優良物件であれば、10〜20年のスパンで価格が上がることも珍しくありません。現金は置いておくだけでは増えませんが、不動産は市場とともに価値が動きます。
この2つを合わせると、試算ベースでは20年後に約3倍——つまり3000万円前後になる計算が出てきます。現金1000万円との差額は2000万円。複数物件で規模を作れば、その差が5000万円を超えるケースも現実的に出てきます。
減価償却という「もうひとつの武器」
さらに見落とされがちなのが、減価償却の節税効果です。
不動産を取得したとき、建物部分の取得費は毎年少しずつ「経費」として計上できます。現金が実際に出ていくわけではないのに、帳簿上は経費が増える——これが法人税の圧縮につながります。
例えば2000万円の建物を耐用年数20年で計上すると、毎年100万円が経費になります。法人税率を30%とすれば、年間30万円の節税。20年で600万円の節税効果です。資産が増えながら、税負担も毎年削れていく。この両立が法人不動産の強みです。
どんな会社が向いているか
この戦略が有効なのは、役員報酬に余裕があり、法人内にある程度の内部留保がある会社です。
「役員報酬を上げて個人で資産運用する」という方法もありますが、所得税率が高い層は受け取る前に大きく削られます。一方、法人で動かせば税引き前の資金をそのまま不動産に投じられます。この差は長期で見ると非常に大きくなります。
注意点もあります。不動産は流動性が低い資産です。急に現金が必要になってもすぐ売れるわけではありません。また、物件選びを誤ると空室リスクや修繕コストで計算が狂うこともあります。
それから、役員報酬の変更は定期同額給与のルールがあり、期中に「来月から下げる」ということは原則できません。法人に資金を残すタイミングは、決算期をまたいで計画的に設計する必要があります。
「設計」だけは今期中にやっておく
すぐに物件を買う必要はありません。ただ、「役員報酬は口座に積んでおけばいい」という選択肢だけを無意識に取り続けるのは、長い目で見ると機会損失になりかねません。
まずは担当の税理士に「法人での不動産保有について相談したい」と一言伝えてみてください。現状の財務状況から、どのくらいの規模でどんな物件が現実的かを一緒に考えるだけで、見える景色がかなり変わります。
役員報酬の「出口戦略」は、後から考えればよかったと後悔する人が多い領域です。今期の決算前に、一度立ち止まって検討してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。