先日、年商4億の製造業を経営する社長から、こんな一言をもらいました。「去年、役員報酬を1,800万円に上げたんだけど、手元に残るお金がぜんぜん増えなかった。増やしても意味ないのかな」

この感覚、じつは多くの社長が一度は経験します。報酬を上げても手残りが増えない——その正体は、個人所得税の累進課税構造にあります。

報酬を増やすほど、なぜ損をするのか

所得税は、課税所得が増えるほど税率が上がっていく仕組みです。住民税10%を加えると、課税所得4,000万円超では最高税率55%(所得税45%+住民税10%)に到達します。

1,000万円の報酬増加に対して550万円が税と社会保険で消えていくイメージです。一生懸命稼いでも、増えた分の半分以上が消える——これが累進課税の現実です。

一方、法人にお金を残して経費として使った場合、法人実効税率は概ね23〜34%程度。個人で受け取る55%と比べると、税率差が20〜30ポイント以上あります。この差を活用するのが、役員報酬×不動産の組み合わせ設計です。

知っている社長が使う3つのパターン

節税効果が大きい社長は、次の3つを組み合わせています。一つひとつは難しくありませんが、組み合わせることで効果が何倍にもなります。

① 役員報酬を「損金」で最適化する

法人が役員に支払う給与は、原則として全額損金に算入できます(定期同額給与の要件を満たす場合)。ポイントは、個人の所得税率と法人税率の差を意識して設計すること。

報酬が高すぎると個人の税率が跳ね上がり、低すぎると法人に留保が溜まって法人税がかかります。どのラインが最適かは、法人・個人の所得バランスを毎期チェックしながら決めることになります。

② 法人で不動産を取得し、減価償却費を積み上げる

法人が収益物件を取得すると、建物部分の減価償却費を毎年損金として計上できます。築古の物件であれば税務上の耐用年数が短くなるため、初年度から大きな減価償却費を計上するケースもあります。

たとえば、1億円の物件で年間500万円の減価償却費が計上できるなら、法人税率25%として年間125万円の節税効果。これが数年間続くのは、かなり大きいです。不動産収入自体も法人内で完結させることで、個人への所得移転を最小限に抑えられます。

③ 役員社宅で住居費を法人経費に変える

社長が個人で家賃を払っている場合、その住居を「役員社宅」として法人が借り上げ、社長に転貸する形に変えると、住居費の大部分を法人経費にできます。

法人が負担した家賃のうち、賃貸料相当額(小規模住宅なら月額数万円程度)を社長が自己負担するだけで、残りは全額法人の損金。月20万円の家賃なら自己負担が3〜5万円で済むケースもあり、差額15〜17万円が法人経費になると、年間180〜200万円超の経費計上も可能です。

3つを組み合わせると何が起きるか

役員報酬の最適化だけでも効果はあります。不動産減価償却の計上だけでも効果はあります。ただし、この3つを同時に設計すると、法人・個人の合計税負担が50%近く圧縮できるケースが生まれてきます。

法人側では、不動産の減価償却費と社宅費用で課税所得が圧縮され、法人税が減ります。個人側では、役員報酬を累進課税の負担が重くなるラインより手前で設計し、社宅で現物給付を増やすことで実質的な手取りを底上げする。この両輪が噛み合うと、「同じ生活水準なのに税負担が半分になった」という状態に近づきます。

設計にあたって必ず押さえる2つの注意点

ただし、知らずに進めると落とし穴があります。

役員報酬の損金算入には「定期同額給与」の要件があります。原則として事業年度開始後3ヶ月以内に金額を決め、その後1年間は同額を支払い続ける必要があります。期中に勝手に増やすと、増加分は損金不算入になるので注意が必要です。

社宅については、賃貸料相当額の自己負担が必須です。自己負担額がゼロだと、全額が役員給与として課税される可能性があります。計算根拠は税務署に説明できるよう、きちんと書面で残しておくことが大切です。

まだ「役員報酬だけ」で考えているなら、今期が変え時です

不動産を個人で持っている、あるいはこれから取得を検討している社長こそ、法人を絡めた設計を考えるタイミングです。特に決算が近づいてからでは間に合わない施策もあるので、今期の着地が見えてきた段階で税理士と相談することをおすすめします。

「うちには不動産なんてない」という社長も、社宅の話だけなら今すぐ動けます。今の家賃契約を見直して法人借り上げに切り替えるだけで、年間数十万円単位の差が出ることがあります。役員報酬と不動産は、別々に考えるより組み合わせて設計した方がはるかに効率がいいです。ぜひ一度、セットで試算してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。