先日、愛知で製造業を営むB社長から、こんな相談を受けました。
「法人で不動産を買って3年になるんですが、ちゃんと節税できているのかどうか、正直よくわからなくて」
家賃収入は毎月安定して入っており、法人の資産としても申し分ない状況です。顧問税理士もついている。一見、何も問題はなさそうに見えました。
でも、詳しく試算を重ねるうちに、ある事実が浮かび上がってきました。3年間で約900万円分の節税機会を、まるごと見逃していたのです。
不動産に潜む「非現金の経費」を使いこなせているか
法人で不動産を持つ最大のメリットのひとつが、減価償却費を毎年の経費として計上できることです。
建物は時間の経過とともに価値が下がるという考え方に基づき、購入金額のうち建物部分を一定のルールで毎年少しずつ経費化できます。現金が出ていかないのに経費が増える——これが「非現金支出」の強みです。
B社長が購入した1棟ビルの建物部分から計算すると、本来であれば年間約900万円近い減価償却費が計上できるはずでした。実効税率34%で換算すると、年間で約300万円の節税効果。3年分で合計900万円です。
それがまったく機能していなかったのです。
900万円を消した2つの「最適化不足」
なぜこうなったのか。原因を掘り下げると、2つのポイントが見えてきました。
ひとつ目は、耐用年数の設定ミスです。
建物の耐用年数は、構造や用途によって細かく区分されています。鉄骨造か RC 造か、事務所用途か住宅用途か——この設定ひとつで、毎年の経費計上額が大きく変わります。特に中古建物は、取得時の経過年数をもとに計算する「簡便法」を使えるケースがあり、この適用可否だけで耐用年数が数年単位で変わることも珍しくありません。
B社長の場合、本来であれば短い耐用年数が適用できる条件が整っていたにもかかわらず、より長い耐用年数で処理されていました。結果として、毎年の減価償却費が少なく計上され続けていたのです。
ふたつ目は、修繕費の分類誤りです。
建物への支出には、「修繕費」としてその年に全額経費計上できるものと、「資本的支出」として複数年に分けて経費化するものがあります。この判断は支出の金額や内容によって異なりますが、修繕費として処理できる支出を資本的支出に分類してしまうと、その期の節税効果が大きく損なわれます。
どちらも「違法」ではありません。申告自体は正しくおこなわれていた。ただ、最適化されていなかっただけです。それでも3年で900万円という数字が積み上がっていきました。
「税理士がいるから安心」という思い込みが落とし穴
B社長には顧問税理士がいました。では、なぜこうなったのか。
理由はシンプルで、その税理士が不動産に特化していなかったからです。
一般的な顧問税理士の主な役割は、決算書の作成と税務申告の代行です。「不動産投資の節税を毎期最大化する」という視点で設計を見直すのは、専門外のことも多い。これはその税理士が悪いわけではなく、守備範囲の問題です。
不動産節税は、購入時の土地・建物の按分設計から始まり、耐用年数の選択、修繕費の計上タイミング、法人スキームの組み方まで、かなり専門性の高い領域です。「顧問税理士がいる=不動産節税も最適化されている」とはならないことを、B社長の事例は教えてくれています。
法人で不動産を持っているなら、今すぐ確認すべき3点
B社長のケースで最も怖いのは、特に何かを「やらかした」わけではないという点です。毎月家賃は入ってくる。申告もしている。表面上は何も問題ない。でも、気づかないうちに「取れていたはずの節税」が消えていました。
法人で不動産をお持ちの方に、一度確認してほしいことが3点あります。
- 耐用年数は適切に設定されているか? 特に中古建物は、簡便法の適用可否で金額が大きく変わります
- 修繕費と資本的支出の区分は正しいか? 大規模修繕をおこなった期はとくに要チェックです
- 担当税理士に不動産専門の知見があるか? なければ、セカンドオピニオンを活用する選択肢があります
法人で不動産を持っているのに節税設計ができていない——これは今この瞬間も、多くの社長に静かに起きていることです。「毎月家賃が入っているからOK」ではなく、「毎年の経費設計が最適化されているか」という視点を持つかどうかで、数百万円単位の差が積み上がっていきます。
もし顧問税理士が不動産専門でないなら、一度だけでいいので不動産節税に詳しい税理士にセカンドオピニオンを依頼してみてください。3年で900万円という数字を聞いたあとでは、もう先送りにはできないはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。