先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「去年、役員報酬を上げたら税理士に怒られた。でも、なぜ怒られたのかよくわからない」と。

話を聞いてみると、じつは年500万円以上の節税メリットを自分で消してしまっていたのです。今日はその実例をもとに、「役員報酬と不動産節税の連動崩壊」という、意外と見落とされがちなリスクをお伝えします。

順調だったはずの節税プラン

その社長は年商2億円の製造業を経営しています。数年前、顧問税理士のアドバイスで法人名義の収益マンションを購入しました。目的はシンプルで、建物の減価償却費を法人の経費として計上し、法人税を圧縮するというものです。

購入した物件は、毎年約500万円の減価償却費を計上できる規模。法人税率を30%として計算すると、年間150万円前後の節税効果が見込める、なかなか優秀なプランでした。実際、購入した翌年の決算では「利益が圧縮できた」と喜んでいたそうです。

「報酬を上げよう」その判断が裏目に

問題が起きたのは、事業が好調で「そろそろ自分の報酬を増やしてもいいかな」と思った翌年です。月50万円、年間600万円の報酬増額を決定しました。感覚的には「利益が出ているから、自分への報酬を増やせば法人税も下がる」という理解だったようです。

たしかに、役員報酬を増やせば法人の利益は減ります。ところが、そうなると減価償却費を使う「余白」がなくなるのです。

具体的に言うと、役員報酬を増やす前は法人の利益に対して減価償却費500万円がちょうど節税として効いていた。それが報酬増額後は法人の課税所得がすでに低くなり、減価償却費の節税効果がほぼゼロになってしまいました。500万円分の経費が「空振り」になった形です。

個人側でも課税が膨らんだ

さらに厄介なのが、個人の税負担です。役員報酬が年600万円増えたことで、社長個人の課税所得も大きく増加しました。所得税と住民税の合算税率は、この所得水準だと**おおむね40〜50%**の水準に達します。

法人側の節税メリット消滅(500万円相当の効果ゼロ化)に加え、個人の所得税・住民税の増加を合算すると、試算上は年500万円超の損失相当になっていました。

「なんとなく利益が出ているから報酬を増やした」という判断が、こんな結果を招くとは思っていなかった、というのが正直なところだったようです。

なぜこうなるのか:法人と個人は別々に考えてはいけない

多くの社長が陥りがちな誤解は、「法人の節税」と「個人の税負担」を別々に考えることです。実際には両者は密接に連動しています。

不動産節税は「法人に一定の利益があること」を前提にして初めて機能します。法人の利益を役員報酬で吸い上げてしまうと、減価償却費が効く余地が消えます。一方で個人の報酬が増えれば、高い税率で課税される。どちらにしても国に払うお金が増えてしまうわけです。

このあたりの最適バランスは、事業の利益水準・家族構成・不動産の規模・出口戦略など、さまざまな要素で変わります。「報酬は年に1回しか変更できない」という制約もあるので、変更前に必ず試算を取ることが大切です。

決算前に必ず確認したい3つのこと

  • 法人の今期利益の見込み(減価償却が有効に機能する余地があるか)
  • 役員報酬を変えた場合の法人・個人それぞれの税負担シミュレーション
  • 不動産の減価償却残年数(あと何年効果が続くか)

この3点を税理士と一緒に確認するだけで、今回のような「やってしまった」は防げます。

不動産節税プランを持っている社長は、役員報酬を動かす前に必ず連動確認をしてください。せっかく仕込んだ節税スキームが、一つの判断で崩れてしまうのは本当にもったいないことです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。