先日、年商3億円の建設業を営む社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を引き継ごうと思っているんですが、相続税ってどのくらいかかりますか?」と。

試算してみると、目が点になる数字が出てきました。現預金と設備が積み上がった純資産価額方式の会社で、株価が5億円近くになっていたんです。

「純資産価額方式」という静かな落とし穴

中小企業の株式評価には「純資産価額方式」が使われることが多くあります。会社の資産から負債を引いた純資産をそのまま株価とする方法です。

問題は、現預金がそのまま株価に乗ること。

利益が出た年に現金を3億円積み上げると、その3億円がほぼ丸ごと株価を押し上げます。相続税率45%が適用されるゾーンなら、それだけで相続税が1億3500万円増える計算です。

「こんなに税金がかかるの?」と承継直前に青ざめる社長が後を絶たないのは、まさにこの構造が原因です。

法人不動産が「株価圧縮」の切り札になる理由

有効な対策のひとつが、法人で収益不動産を取得することです。

仕組みはシンプルです。不動産の相続税評価額は時価より低く計算されます。土地は路線価(時価の約80%)、建物は固定資産税評価額(時価の約60〜70%)で評価されるため、同じ金額の現金を持っているより、株価への影響がぐっと小さくなります。

たとえば2億円の現金を持っていたとします。現金のまま持ち続ければ、2億円まるごと株価に乗ります。でも、法人でその2億円を使って収益不動産を取得すると、評価額が1億〜1億2000万円程度に圧縮されるケースがあります。

差額は8000万円〜1億円。相続税率45%なら、理論上3600万円〜4500万円の節税差です。

実際のケースで見ると、差がくっきり出る

先ほどの建設業の社長の話に戻ります。

純資産約4億8000万円のうち、現預金が1億8000万円ほどありました。そこで法人名義で都内の一棟マンション(1億5000万円)を取得したところ、株価評価が約1億円ほど下がりました。

相続税率45%の計算では、これだけで約4500万円の節税差が生まれます。

さらに収益不動産なので、毎月家賃収入も会社に入ってきます。キャッシュフローを維持しながら株価を下げられる、まさに一石二鳥の対策です。

やみくもに動くと、かえって痛い目を見る

ただし、注意してほしいことがあります。

法人不動産による株価圧縮は、物件の立地・利回り・取得タイミングによって効果が大きく変わります。利回りの低い物件を焦って買っても、節税効果より不動産リスクのほうが大きくなることもあります。

また、個人で持つか法人で持つかによって、売却時や相続時の課税関係がまったく変わります。出口まで見据えた設計が不可欠です。

近年は「節税目的が明らか」と税務署が判断した不動産購入を否認した裁判例も増えています。スキームありきで動かず、事業承継のゴールから逆算して専門家と一緒に設計することが大前提です。

「そろそろ引き継ぎを」と思ったら、今が動きどき

事業承継対策は、早く始めるほど選択肢が広がります。株価が上がりきってからでは、できることが極端に狭まります。

特に純資産が積み上がっているオーナー企業は、5年・10年のスパンで少しずつ株価を下げていく設計が理想です。まずは専門の税理士に「現状の株価試算」と「対策シミュレーション」を依頼してみてください。

数千万円の差は、動くか動かないかだけで生まれます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。