先日、資産運用を考えていた製造業の社長からこんな質問をいただきました。「個人で不動産を買うのと、会社で買うのって、どっちが得なんですか?」
結論からお伝えすると、多くのケースで法人で保有するほうが節税の幅が大きくなります。そして、その差は想像以上に大きい。今回は、木造アパートを一棟買った場合の具体的な数字を使って、その仕組みを解説します。
「経費480万円」はどこから出てくるのか
法人が木造アパート(建物部分6,000万円)を7,000万円の借入で購入したケースを考えてみましょう。
この物件を持つだけで、毎年発生する経費が大きく3つあります。まず減価償却費が272万円。木造建築の法定耐用年数は22年なので、6,000万円÷22年=約272万円が毎年の経費として計上できます。次に借入利息が175万円。7,000万円の融資に対する利息部分は、全額経費になります。そして固定資産税と管理費などが33万円。
これらを合計すると、年間480万円が経費として計上できることになります。物件を購入した初年度から、この効果が出てくる点が重要です。
節税額に換算すると「168万円」
480万円の経費が増えるということは、法人の課税所得がその分だけ圧縮されるということです。法人実効税率を約35%とすると、節税額は次のように計算できます。
480万円 × 35% = 約168万円
これが、不動産を一棟保有するだけで毎年期待できる節税効果です。10年保有すれば、累計で1,680万円の節税になる計算。物件そのものの資産価値とは別に、この「税の削減効果」が法人不動産投資の大きな魅力になっています。
個人保有と何が違うのか
同じ物件を個人で購入した場合、減価償却費や借入利息は「不動産所得」の経費としか使えません。不動産所得が赤字になれば給与所得と損益通算はできますが、所得税の税率が適用される範囲に限界があります。
一方、法人で持つと、不動産の損益が会社全体の損益と自動的に合算されます。他の事業の利益が大きければ大きいほど、不動産の経費がそのまま法人税の圧縮に直結します。利益が出ている会社ほど、法人不動産の節税効果が高くなる構造です。
また、法人名義であれば役員への退職金の原資として不動産を活用したり、相続対策として株式を通じた承継スキームに組み込んだりと、将来の出口戦略の選択肢も広がります。
導入前に確認しておきたい3つのこと
法人不動産は節税効果が高い一方で、いくつか注意すべき点があります。
借入と資金繰りのバランスが最初の確認ポイントです。7,000万円の借入には元本返済が伴います。減価償却費は経費ですがキャッシュアウトを伴わない一方、元本返済は経費にならないのにキャッシュが出ていく。この「税務と資金繰りのズレ」を会社全体のキャッシュフローで吸収できるかどうかを事前に確認してください。
次に出口のタイミング。不動産を売却するときには、売却益に法人税がかかります。保有期間や売却のタイミングによって税負担が変わるため、「買うとき」だけでなく「売るとき」まで見据えた計画が必要です。
そして物件の立地と収益性。節税効果があっても、空室が続けば実質的なキャッシュアウトになります。節税目的だけで収益性の低い物件を買うのは本末転倒なので、本業の利益と合わせた総合的な収支シミュレーションが欠かせません。
法人不動産は、うまく使えば毎年168万円規模の節税が期待できる強力な手法です。ただし、物件の選定・借入設計・出口戦略まで一体で考えないと本来の効果が出ません。
「うちの会社でどのくらい効果があるか試算したい」という社長は、まず自社の課税所得の水準と手元キャッシュの状況を整理してから、税理士に相談するのがおすすめです。数字を持ち込んで具体的に話すほど、シミュレーションの精度が上がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。