先日、年商3億円ほどの建設業を営む社長から、こんな電話がかかってきました。
「税務調査が終わったんですが……追徴が800万円になりそうで。社宅を使った節税をやっていたんですが、全部否認されてしまって」
言葉の端々から、動揺が伝わってきました。不動産を使った節税は、うまくやれば確かに強力な手法です。ただ、やり方を間違えると、節税どころか大きなダメージになりかねません。
法人の不動産節税で陥りやすい失敗パターンを3つ、順番に見ていきたいと思います。
3位:「経費=節税額」という思い込み
「年間120万円の経費が落ちるから、そのまま120万円得をする」——こういう認識の社長、実は少なくありません。
でも、これは正確ではないんです。
法人税率(中小企業の実効税率で概ね30〜34%程度)で計算すると、120万円の経費計上によって減らせる税金は40万円前後にとどまります。120万円払って、手元に残るのは40万円の節税効果。残りの80万円はキャッシュが出ていくだけです。
もちろん、不動産を活用することで会社に資産が積み上がるという側面はあります。ただ、「経費が増えた=それだけ節税できた」という感覚のまま意思決定をすると、投資判断が狂います。本当にペイするかどうか、最初に試算しておくことが大切です。
2位:売るときに「取り戻される」出口課税
不動産を使った節税でもっと見落とされがちなのが、出口——つまり売却時の課税です。
法人が不動産を保有している間は、減価償却費を毎年経費に計上できます。それ自体は正当な節税です。ただし、減価償却した分だけ帳簿上の価値(簿価)は下がっていきます。
そして不動産を売却するとき、売却価格と簿価の差額が「売却益」として法人の利益に計上されます。この売却益に対して、法人税(最大34%程度)が課税されるんです。
たとえば、5,000万円で購入した物件が、20年の減価償却で簿価が1,000万円になったとします。それを4,500万円で売却できた場合、売却益は3,500万円。そこに課税されると、1,000万円超の税負担が生じることもあります。
「毎年の節税分が、売るときにまとめて取り戻される」——こう表現するとわかりやすいかもしれません。出口課税を最初から計算に入れて、それでも有利かどうかを確認する視点が欠かせません。
1位:実態のない社宅・経費の計上
さて、冒頭の社長が800万円の追徴を受けたのは、まさにこのケースでした。
社宅として法人で不動産を購入し、役員が住む形をとれば、家賃相当額を会社の経費にすることができます。これ自体は合法的な節税手法です。
ただ、「形だけ社宅にして、実際には役員や家族が私的に使っている」という実態は、税務調査で厳しくチェックされます。
実態がないと判断されると「仮装・隠蔽」とみなされ、通常の延滞税に加えて重加算税(35%)が上乗せされます。節税のつもりが、元の税額より多く払う羽目になることも珍しくありません。こういったケースでは追徴税額が800万円を超えることもあり、しかも過去にさかのぼって修正されるので「知らなかった」では済まないんです。
社宅として使用するなら、住民票の移動、光熱費の実績、実際の生活の痕跡——こうした証拠を整えておくことが最低条件です。
不動産節税は「最初の設計」で決まる
3つのミスに共通しているのは、どれも「始める前にわかっていれば避けられた」という点です。
不動産節税は確かに有効な手法ですが、入口の節税だけでなく出口の課税まで計算し、実態を伴った運用ができてはじめて効果が出ます。顧問税理士と「5年後・10年後に売ったとき、手元にいくら残るか」を一度シミュレーションしていない社長は、今期中にその確認を取っておくことをおすすめします。
800万円の後悔は、ちょっとした確認と設計で防げることがほとんどです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。