先日、売上が好調な建設業の社長から、「今期は業績が良かったので、役員報酬を月100万円上げようと思っています」という相談を受けました。

気持ちはよくわかります。がんばった分、自分への報酬を増やしたい。でも正直に言います。その100万円、手元に残るのは55万円ほどです。

100万円のうち、45万円が消える

役員報酬を増やすということは、個人の課税所得が増えることを意味します。年収によって税率は変わりますが、一定の収入がある社長の場合、所得税と住民税を合わせた実効税率は40〜45%になることが多いです。

月100万円の増額なら、年間で1,200万円の課税所得が上乗せされます。そこから税金と社会保険料が引かれると、実際に手元に残るのは550〜600万円ほど。残りの600万円以上が、いわば「見えない出費」として消えていきます。

「売上を伸ばしても、半分近くが税金になる」——この徒労感に覚えのある社長は少なくないはずです。

賢い社長が選ぶ「もう一つの道」

では、この問題を知っている社長はどうするのか。答えはシンプルで、役員報酬を上げずに法人にお金を残すことです。

具体的には、その100万円を法人の内部留保として積み上げ、法人名義で不動産を購入する原資に充てます。法人で不動産を買うと、建物部分を減価償却費として毎年経費に計上できます。たとえば5,000万円の中古一棟マンションであれば、築年数と構造によっては年間数百万円を経費化できるケースもあります。

法人の利益が圧縮され、法人実効税率(約34%)分の税負担が減ります。個人に出して45%課税されるお金が、法人に残せば34%の節税効果を生む資産に変わるわけです。

「手取り額」より「資産残高」で考える

ここで少し視点を変えてみましょう。役員報酬を増やす発想は、「個人の手取りを増やすこと=豊かになること」という前提に立っています。

法人名義の不動産は社長個人の財産ではありません。ただし、その法人の株式を保有しているのは社長自身です。不動産の価値は株式評価に反映され、将来の事業承継やM&Aの場面で大きな意味を持つことがあります。

手取りの55万円はすぐに使えますが、法人に残した100万円は長期的な資産として価値を生み続ける可能性があります。「今すぐ使える手取り」と「将来の法人資産」のどちらが豊かさにつながるかはライフプランによりますが、長期視点で考えると法人に残す選択肢に引力があります。

注意点:これは万能策ではない

ただし、「法人で不動産を買えばいい」と単純に結論づけるのは危険です。

不動産投資には審査・金利・維持管理コストが伴います。物件の選び方次第では、減価償却効果が想定より小さくなったり、空室リスクでキャッシュフローが悪化することもあります。また、法人の財務状況によっては、不動産よりも設備投資や退職金積立を優先すべきケースもあります。

「役員報酬を上げない」という選択が正解かどうかは、個々の状況によって判断が異なります。

役員報酬の改定前に、ひと呼吸置く

役員報酬の見直しを検討しているなら、増額を決める前に一度だけ、「このお金を個人に出す必要があるか?」と自問してみてください。

法人に残した資金は、不動産に限らず、保険・退職金原資・設備投資など、様々な形で将来の価値に変換できます。大切なのは「税引後の手取り額」ではなく、「10年後の資産総額」という視点で意思決定することです。

役員報酬の改定を考えているなら、増額の選択肢と並んで「法人に残す選択肢」を顧問税理士と一緒に比較検討してみてください。その一言が、数百万円単位の差を生むことがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。