先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「手元に現金が余っているので、どこかに使いたい。不動産でも買おうかと思っているんですが、法人で買った方がいいですか?」

そこで私が最初に確認したのが、「新築ですか?それとも築古ですか?」という一点でした。なぜなら、この違いだけで節税効果が天と地ほど変わるからです。

「耐用年数を超えた物件」には特例がある

不動産の減価償却は、建物の「法定耐用年数」をもとに計算します。木造住宅であれば22年。新築で購入すれば、22年かけてじわじわと経費に落としていく計算です。

ところが、すでに法定耐用年数を超えた築古物件を取得した場合は、話がまったく変わります。残存耐用年数の計算式が適用され、木造の場合は最短4年で建物の取得価額を全額償却できるのです。

5,000万円が4年で経費になる、という現実

具体的な数字で確認してみましょう。

築25年超の木造物件を、建物部分5,000万円で法人が取得したとします。法定耐用年数22年をすでに超えているため、耐用年数は4年と計算されます。すると毎年の減価償却費は1,250万円です。

4年間で合計5,000万円が経費として計上できる。実効税率を約34%とすれば、4年間の累計節税額は約1,700万円になります。

年間400万円以上の節税が、4年間にわたって合法的に続く計算です。利益が出ている法人にとっては、非常にインパクトの大きい手法です。

個人で買うと何が違うのか

「個人で買っても同じ計算式が使えるのでは?」と思う方もいるかもしれません。確かに、耐用年数4年の適用自体は個人でも同じです。

ただし、個人の場合は減価償却費を「不動産所得」の計算にしか使えません。他の所得との損益通算には制限があり、役員報酬など給与所得との相殺はできないのが原則です。

法人であれば、不動産の減価償却費も含めて法人所得全体を圧縮できます。役員報酬の設定や他の経費と合わせて一体で考えられるため、手元に残るキャッシュの差は数百万円規模になることもあります。

この社長も、最終的に法人名義での購入に踏み切りました。

必ず押さえておきたい「土地の配分」問題

一つ、絶対に見落としてはいけないポイントがあります。

減価償却の対象は「建物」だけです。土地は経費になりません。

不動産の売買契約書に土地・建物それぞれの価格が明記されているケースは、思いのほか少ないです。記載がない場合は、固定資産税評価額などを根拠に按分することになります。

この「土地・建物の配分比率」が節税効果を大きく左右します。同じ5,000万円の物件でも、土地3,500万円・建物1,500万円という配分なら、減価償却できるのは1,500万円だけです。建物比率が高い物件ほど、節税効果は大きくなります。物件を選ぶ段階からこの視点を持っておくことが重要です。

「節税になるから」だけで動くと危ない

減価償却のメリットが大きい分、出口まで考えた設計が欠かせません。

4年後に物件を売却すれば、帳簿価額がゼロに近づいているため譲渡益が大きくなり、法人税がかかります。長期保有するのか、売却も視野に入れるのかによって、最適な戦略はまったく異なります。

また、どれだけ節税効果が高くても、収益性の低い物件を「節税のため」だけに買うのは本末転倒です。キャッシュフローが悪化して本業に影響が出るようでは意味がありません。節税は手段であって、目的ではないことを忘れないでください。

決算前ではなく、今から動く

手元の現金を活用したい、今期の利益を圧縮したい、という社長にとって、築古木造物件の法人取得は有力な選択肢のひとつです。

ただし、物件の選定・土地建物の配分・出口戦略の3点をセットで設計しないと、期待通りの節税にはなりません。「決算が近づいてから相談」では動ける選択肢が一気に狭まります。不動産購入を少しでも考えているなら、できるだけ早い段階で税理士に相談することをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。