先日、ある建設会社の社長からこんな相談を受けました。「先月、役員報酬をやっと決め直したんですが、そのあとに不動産を買ったんです。順番、間違えましたか?」

結論から言うと、惜しかった、です。

役員報酬の改定は、定時株主総会(決算後3ヶ月以内)に合わせた年に一度のタイミングしか、原則として認められていません。このルールを知らずに「まず報酬を決めてから不動産を探そう」と別々に動くと、最大で1年間、重い税負担を背負ったまま過ごすことになります。

役員報酬改定には「年1回」というタイムリミットがある

法人税法上、役員報酬が損金として認められるのは「定期同額給与」「事前確定届出給与」などの要件を満たした場合に限られます。

多くの中小企業で使われている定期同額給与は、1年間毎月同額を支払い続けることが条件です。変更できるのは基本的に、決算後3ヶ月以内の定時株主総会のタイミングだけ。

つまり、このウィンドウを逃すと次に最適化できるのは1年後。あの社長が「惜しかった」のは、このタイムリミットと不動産取得のタイミングがズレてしまったからです。

なぜ不動産取得と同時に動くべきなのか

報酬改定と法人不動産の取得を同時に進めるべき理由は、大きく3つあります。

① 法人に残す資金を最大化できる

役員報酬を適切な水準に調整すると、社長個人への所得税・社会保険料の負担が変わります。報酬を少し下げて法人に資金を残す設計にすれば、その余剰資金を不動産の頭金として活用できます。個人から出すより、法人からまとめて動かすほうが資金効率は格段に上がります。

② 減価償却による節税効果をすぐに取り込める

木造アパートや築古の建物は法定耐用年数が短く、取得した期から大きな減価償却費を計上できます。法人実効税率が約34%であれば、減価償却を100万円計上するたびに約34万円の税負担が減る計算です。

これを5年・10年と積み上げれば、節税総額は数百万円規模になります。

③ 資産形成と節税が両立する

個人での不動産投資と違い、法人で取得すれば貸借対照表に資産として乗ります。将来の事業売却や相続の際にも引き継ぐことができ、節税しながら資産を育てるという二重のメリットがあります。

「別々に動く」とどれだけ損するのか

3月決算の会社が6月の定時株主総会で役員報酬を改定したとします。このタイミングで不動産も同時に取得すれば、その期から減価償却費を損金に乗せられます。

でも「まず報酬を決めて、物件はまた今度」と後回しにすると、実際に取得できるのは翌年の春以降になるケースが多い。そうなると、減価償却の恩恵を受けられるタイミングが1年ズレてしまいます。

仮に年間200万円の減価償却が取れる物件だとすれば、1年遅れただけで約68万円の節税機会を失う計算です。「後でやろう」のツケは、思っているより重いのです。

このタイミングを逃さないための動き方

理想は、決算月の3〜4ヶ月前から並行して準備を始めることです。

  • 次期の役員報酬シミュレーション(所得税・社会保険料の比較)
  • 購入候補物件のリストアップと資金計画の策定
  • 税理士・不動産会社との三者すり合わせ

「報酬を決めてから物件を探す」ではなく、「報酬改定と同時に動けるよう、先手で物件を絞っておく」という順番が重要です。

次の決算が近い方は、今すぐ税理士に「来期の報酬設計と不動産取得を一緒に考えたい」と相談することをおすすめします。1年に一度しかないこのウィンドウを、賢く使ってください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。