先日、こんな相談を受けました。
「毎月30万円の家賃、ずっと個人で払ってきたんですけど、何かいい方法ってありますか?」
相談してきたのは、都内で事業を展開する年商3億円の社長です。自宅は都心のタワーマンション。家賃は月30万円。これを毎月、手取りのなかから払い続けていたんです。
「社長、それ、会社で払えますよ」
この一言に、社長は目を丸くしていました。
法人が家賃を払う「役員社宅制度」とは
会社が社長(役員)の自宅を借り上げ、その家賃を法人の経費として計上する仕組みを「役員社宅制度」と言います。国税庁の通達に基づいた制度で、正しく設計すれば家賃の大部分を法人経費にすることができます。
仕組みはシンプルです。会社が大家と直接賃貸契約を結び、月30万円の家賃を法人が支払う。社長は会社に対して「賃貸料相当額」を支払う。この差額がまるごと法人の経費になる、という構造です。
中小企業の実効税率はおよそ23〜34%。月30万円の家賃を全額経費にできれば、年間で360万円の経費計上。これに実効税率をかけた約82〜122万円が節税になります。毎年、この金額が手元に残ってくる計算です。
「賃貸料相当額」はいくら払えばいい?
ここが制度のポイントです。社長が会社に払う賃貸料相当額は、市場家賃とは別の計算式で決まります。
国税庁の通達(法人税基本通達9-4-1)では、住宅の固定資産税課税標準額をもとにした計算式が定められています。一般的に、市場家賃の10〜20%程度になるケースが多いです。
市場家賃30万円のマンションでも、賃貸料相当額が3〜6万円になることも珍しくありません。社長の個人負担が月3万円になり、残り27万円が法人経費になる。これが役員社宅制度の強みです。
ただし、住宅の規模によって計算方法が変わります。床面積132㎡以下(木造は99㎡以下)の「小規模住宅」に該当するかどうかで計算式が異なります。タワーマンションや大型住宅は「小規模住宅以外」となり、賃貸料相当額が高くなるケースがあるため、節税効果が小さくなることもあります。物件を選ぶ段階で、この区分を把握しておくと安心です。
設定を誤ると「給与課税」になる
注意しなければならないのは、賃貸料相当額の計算を誤ったときのリスクです。
会社が家賃を負担しているのに、社長が支払う賃貸料相当額が不足していると、その差額は「給与」として扱われます。社長個人の所得税・住民税の対象になってしまう。「節税のつもりが、かえって課税を増やしていた」という笑えない事態になりかねません。
固定資産税課税標準額は、毎年4〜6月ごろに届く固定資産税の納税通知書で確認できます。ただ、賃貸物件の場合は大家に資料提供をお願いする必要があり、取得に手間がかかることもあります。
実際に導入する手順
実務上の流れを整理すると、次のようになります。
まず、大家と会社が直接賃貸契約を結びます。すでに個人名義で契約している場合は、名義変更または再契約が必要です。次に、固定資産税課税標準額をもとに賃貸料相当額を計算し、この金額を毎月社長から会社に支払います。そして、社内規程(役員社宅規程)を整備します。規程がないと、税務調査で「根拠のない経費」と見られるリスクがあります。
ここで正直に言うと、この制度は「ざっくり導入して終わり」では危険です。計算の根拠資料をきちんと保存しておかないと、税務調査のときに困ります。税理士と一緒に設計し、規程と証拠書類をセットで整えるのが鉄則です。
知っている社長と知らない社長で、毎年100万円超の差が出る
役員社宅制度は、知っているかどうかだけで毎年100万円以上の差が生まれる可能性がある制度です。住んでいる場所が変わるわけでも、生活水準が下がるわけでもありません。誰と賃貸契約を結ぶかを変えるだけ。それだけで、毎年の税負担が大きく変わります。
まだ個人で家賃を払い続けているなら、今期中に顧問税理士へ「役員社宅にしたい」と相談してみてください。物件の規模・構造・固定資産税課税標準額によって節税効果は変わりますが、検討しない理由はほとんどないはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。