先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「うちの会社、不動産を法人名義で持ってるんですけど、税理士から『書類を整えてください』って言われたんです。何か問題があるんですか?」
この社長、別に悪いことをしているわけではありません。でも、法人で不動産を持っているというだけで、税務調査官が目を光らせやすい構造になっているんです。
「個人と法人の取引が多い」これが狙われる理由
税務調査で指摘を受けやすい会社には、共通したパターンがあります。そのひとつが、個人オーナーと会社の間に複数の取引が発生しているという状況です。
法人で不動産を持つと、「個人↔法人」の取引が自然と増えます。社長が住む家を会社が借り上げた「役員社宅」、土地を社長個人から会社が借りているなら「地代の支払い」、建物が傷んできたら「修繕工事の費用処理」。
これらはすべて、税務署から見ると「関連当事者間取引」に分類されます。「社長と会社、どちらに有利になるよう金額を操作したのか」という目線で見られる取引です。
指摘できる箇所が多いほど、調査官には旨みがある。法人不動産オーナーは、その構造を抱えやすいのです。
最も危険なのは「計算根拠の曖昧さ」
実際に何が問題になるのか。最も多いのが、金額の計算根拠が残っていないというケースです。
役員社宅の家賃を例にとります。社長が会社所有の物件に住んでいる場合、会社は社長から一定の家賃を受け取らなければなりません。この「一定の家賃」は、国税庁の通達に定められた計算式——固定資産税評価額や床面積をもとに算出する方法——で求める必要があります。
「相場くらいの金額にしておけばいいだろう」という感覚で決めていたら、アウトです。調査が入ったとき、計算根拠を示せないと「みなし給与」として処理され、社長個人に所得税と社会保険料が課される可能性があります。
修繕費も同様のリスクを持っています。「壁を直した」「屋根を補修した」という工事は、内容によって「修繕費(全額損金)」か「資本的支出(減価償却が必要)」かが変わります。工事の内容・範囲・金額を確認できる書類がなければ、「これは資本的支出ではないですか」という指摘に反論できません。
ペナルティは最大35%、それだけではすまない
書類の不備や申告の誤りが発覚した場合、追徴税額にプラスしてペナルティが課されます。
通常のうっかりミスであれば、過少申告加算税が10〜15%。しかし調査官が「意図的な過少申告だ」と判断すれば、重加算税35%が適用されます。
仮に100万円の申告漏れがあった場合、35万円のペナルティに延滞税まで加わります。「ちゃんとやっていたつもりなのに」という状況でこれが来ると、金銭的なダメージだけでなく、調査に費やす時間と精神的な消耗も相当なものです。
対策はシンプル。やっていない社長が多いだけ
ここまで聞くと「難しそうだ」と感じる社長が多いのですが、やることは2つだけです。
ひとつ目は、計算根拠の明文化です。 役員社宅の家賃は、国税庁通達に基づく計算シートを作って保管する。地代なら、周辺の相場や固定資産税額を参考にした根拠資料を残す。「なぜこの金額にしたか」を第三者が見てわかる状態にしておくことが重要です。
ふたつ目は、工事・修繕の記録整備です。 工事業者からもらった見積書・請求書に加えて、工事の写真や内容メモを残しておく。これだけで、修繕費か資本的支出かの判断根拠が格段に揃います。
作業そのものは難しくありません。ただ、「税理士がうまくやってくれているだろう」と思って放置している社長が実際に多い。定期的に棚卸しが必要な部分です。
今期中に確認しておくべきチェックポイント
- 役員社宅の家賃は国税庁通達の計算式で算出しているか
- その計算根拠の資料を保管しているか
- 修繕工事の内容・範囲・金額が書類で確認できるか
- 地代があれば、算出根拠が残っているか
法人で不動産を持つことの節税メリットは大きいです。ただ、そのメリットを長く享受するためには、管理コストも同時にかけていく必要があります。
まだ書類が整っていないと感じているなら、顧問税理士に「今の状態で調査が入ったらどこが危ないか」を確認してみてください。リスト化してもらうだけで、対策の優先順位がはっきりします。法人不動産を持つなら、この整備は今期中に終わらせておくのが安心です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。