先日、不動産賃貸業を法人化してちょうど3年目になる社長から、こんな連絡が届きました。
「税務調査の通知が来ました。何か問題になりそうな経費って、ありますか?」
正直に言うと、このご相談は「手遅れ」の一歩手前でした。3年分の帳簿を確認すると、今回お伝えする4つの経費が、ほぼすべて含まれていたのです。
不動産法人は、税務署から見ると「チェックしやすいターゲット」です。賃料収入は明確で、支出もパターンが決まっている。だからこそ処理の誤りが数字にはっきり現れやすい。税務署員も、どこを見れば問題が出てくるかを熟知しています。
修繕費と資本的支出の「区分ミス」
最も多いのが、修繕費の処理ミスです。
建物に手を入れたとき、「現状維持」の工事なら修繕費として全額を即時費用にできます。ところが「価値を高める」工事や「耐久性を延ばす」改修は資本的支出として扱われ、減価償却を通じて数年にわたって費用化しなければなりません。
たとえば築古マンションの外壁工事。単なる塗り替えは修繕費ですが、断熱材の追加や防水性能の大幅向上が伴うと、資本的支出と判断されます。200万円の工事を一括で修繕費処理していた場合、否認された分は損金不算入となり、追加税額が生じます。
「これは修繕費でいけるだろう」という自己判断が、一番危険です。工事の内容と見積書は必ず保管し、判断が難しいものは税理士に事前確認を取る習慣をつけてください。
役員社宅の「賃料計算ミス」
会社が物件を借り上げて役員に住まわせる「役員社宅」は、節税効果が高い手法として広く使われています。ただし、役員から徴収する賃料の計算に厳格なルールがあります。
税法では、固定資産税課税標準額を基に計算した「適正家賃」の50%以上を役員から受け取らなければなりません。この計算を省いて「家賃の3割でいいか」と独自に決めると、適正額との差額が役員賞与として認定されます。
役員賞与は、事前確定届出がなければ全額損金不算入です。その上、役員個人に所得税も発生します。会社と個人の両方でダメージを受ける二重苦になります。
固定資産税課税標準額は、毎年届く固定資産税の納税通知書に記載されています。まず手元の通知書で計算を確認してみてください。
実態のない「管理委託費」
家族が設立した管理会社に業務を委託するスキームは、所得分散の定番手法です。ただし、業務の実態が伴っていないと、管理委託費は丸ごと否認の対象になります。
税務署はシンプルに確認してきます。「この管理会社は、具体的にどんな業務をしていますか?」
入居者対応の記録がない、クレームへの対応履歴がない、実際には別の管理会社が動いている——こういった状況では言い訳ができません。年間300万円の管理委託費が全額否認されると、法人税の追加納税額はかなりの規模になります。
業務日報、対応記録、請求書の整合性。これらを日頃から残しておくことが、実態証明の基本です。
耐用年数の「意図的な混用」
建物を取得したとき、建物本体と附属設備(エアコン・給排水設備など)は区分して、それぞれの耐用年数で減価償却するのが原則です。
附属設備の耐用年数は建物本体より短い。たとえば給排水設備は15年、RC造の建物本体は47年です。この差を利用して、附属設備の割合を意図的に大きく見積もり、減価償却費を早期に膨らませようとするケースがあります。
税務署もこの手法を熟知しており、按分の根拠資料を必ず求めてきます。取得時の工事見積書や明細書で各設備の金額が明確に区分されていなければ、按分は否認対象です。建物取得時の書類は、耐用年数が終わるまで捨てないでください。
否認されると、どうなるか
これら4つのいずれかで問題が認定されると、過少申告加算税として本税の10〜15%が上乗せされます。さらに意図的な操作と判断された場合は「仮装・隠蔽」として重加算税35%が課されます。
そして原則として5年分さかのぼっての修正申告です。毎年100万円の節税効果があったとしても、5年分まとめて否認されれば500万円超の追加納税。加算税を含めると600〜700万円規模になることも珍しくありません。
「知らなかった」は通じない世界です。
今期の決算前に確認してほしいこと
不動産法人を持っているなら、次の4点を今すぐ税理士と確認してください。
- 修繕工事の費用が修繕費か資本的支出か、根拠をもって区分されているか
- 役員社宅の賃料が固定資産税課税標準額から正しく計算されているか
- 管理委託費の業務実態を証明できる記録が残っているか
- 建物と附属設備の区分が取得時の書類で裏付けられているか
「おそらく大丈夫だろう」と思っているとき、実は一番危ないタイミングです。税務調査の通知が来てからでは、できることが大きく限られてしまいます。決算を締める前に、一度プロの目で確認してもらうことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。