先日、決算を3ヶ月後に控えた社長からこんな相談がありました。「不動産を買えば節税できると聞いたんですが、うちの会社でもやれますか?」というご質問です。

話を聞いてみると、その社長の会社は役員報酬を高めに設定していて、法人に残る課税所得はほとんどない状態でした。このパターンで不動産を買っても、実は節税効果がほぼゼロになってしまいます。「えっ、そうなんですか」と驚かれましたが、これは非常によくある落とし穴なのです。

減価償却費は「課税所得」の範囲でしか効かない

不動産節税の仕組みを一言で言うと、「建物の購入費用を毎年少しずつ経費に計上することで、法人税を減らす」というものです。これが減価償却費です。

ここに、見落とされがちな制約があります。

減価償却費は、課税所得の範囲内でしか節税効果を発揮しません。たとえば年間300万円の減価償却費が出る不動産を持っていても、そもそも課税所得が100万円しかなければ、使えるのは100万円分だけ。残り200万円は宙に浮いてしまいます。

役員報酬を高く設定して法人の利益を圧縮している会社ほど、このトラップにはまりやすいのです。

月20万円下げると課税所得に何が起きるか

ここで「役員報酬を月20万円下げる」という選択肢が出てきます。

月20万円の削減は、年間で240万円のインパクトです。役員報酬は法人の経費ですから、これを下げると法人の課税所得が240万円増えます。役員個人の手取りは一時的に減りますが、法人側の節税効果が上回れば、グループ全体でプラスになります。

具体的な数字で確認してみましょう。

節税額が3倍になる計算式

中小法人で実効税率が約25%のケースを想定します。年間300万円の減価償却費が出る不動産を持っているとして、比べてみます。

【役員報酬を下げる前】課税所得が100万円のケース

  • 活用できる減価償却費:100万円(300万円のうち)
  • 節税効果:100万円 × 25% = 約25万円

【役員報酬を月20万下げた後】課税所得が300万円に増えたケース

  • 活用できる減価償却費:300万円(全額活用できる)
  • 節税効果:300万円 × 25% = 約75万円

節税額は25万円から75万円へ、ほぼ3倍になります。

もちろん、役員報酬を下げた分、個人の所得税・住民税は減ります。そのぶんの税負担軽減もあわせて考えると、オーナー社長の場合は法人の実効税率より個人の税率が高いケースも多く、トータルで見てお得になることが十分あります。どちらが有利かは個人・法人それぞれの税率バランスによって変わりますので、数字での検証が欠かせません。

節税に「順番」がある理由

節税の話でよく見落とされるのが、「やる順番」です。

不動産節税を最大限に活かすには、次の順番で動くことが前提になります。

  1. 今期の課税所得をいくら残すか設計する(役員報酬・経費の最適化)
  2. その課税所得に見合った不動産を選んで購入する

「とりあえず不動産を買ってから最適化しよう」という逆の順番では、手遅れになります。役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内にしか変更できませんし、不動産の購入は一度実行したら簡単に取り消せません。設計のタイミングを間違えると、せっかくの節税ツールが使い物にならなくなります。

相談のベストタイミングは「買う前」

よく「不動産を買い終わったのですが、節税の手続きを教えてください」と相談を受けます。

ただ、正直に言うと、そのタイミングではできることがかなり限られています。最善の相談タイミングは、購入を検討し始めた段階、できれば期首に近い時期です。「今期の課税所得の見通し」と「役員報酬の適正水準」をセットで設計することが、節税効果を最大化するポイントになります。

まだ役員報酬の金額を感覚で決めているなら、今期の決算前に一度シミュレーションしてみることをおすすめします。数字を並べてみると、「もう少し課税所得を残しておけばよかった」という場面が意外と見つかるものです。不動産節税に限らず、節税の設計は期中に仕込んでおくほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。