先日、まったく同じ物件を買った2人の社長の話を聞きました。どちらも年商1億円規模の中小企業オーナー。購入したのは同じ3,000万円の収益マンションです。それなのに5年後の手取りに、1,500万円近い差がついていました。
何が違ったのか。答えはシンプルです。「不動産を買う前に役員報酬を調整したかどうか」。たったそれだけでした。
役員報酬を下げて法人にキャッシュを「溜める」
A社長は不動産購入を決めた段階で、まず税理士に相談しました。返ってきたアドバイスは予想外のものでした。「物件を買う前に、役員報酬を月100万円から70万円に下げましょう」。
「給料が減るのに節税になるの?」と思うかもしれません。でも、これには明確な理由があります。役員報酬を下げると、個人の課税所得が減り、所得税・住民税の負担が軽くなります。その分、会社にキャッシュが残る。そのお金を法人名義で物件購入に充てていく、というのが基本的な考え方です。
A社長の会社は法人として3,000万円の収益物件を取得しました。毎月入ってくる家賃収入は法人の売上として計上され、建物の減価償却費は法人の経費になります。個人の高い税率に触れることなく、収益が法人内で循環していくのです。
何も変えなかったB社長の5年後
B社長は「役員報酬はそのままでいい」と判断し、個人名義で同じ3,000万円の物件を購入しました。不動産会社から「個人名義でも問題ありません」と言われ、そのまま進めてしまったわけです。
ここからが問題です。家賃収入は個人の不動産所得として課税されます。役員報酬がすでに一定額ある中小企業オーナーは、不動産収入が上乗せされることで税率が上がりやすい状況にあります。所得税と住民税を合わせると、最大43%もの税率がかかってしまう可能性がある。
さらに、個人所有では法人側に減価償却のメリットが一切ありません。毎年発生するはずだった経費が、まるごと消えてしまっているのです。5年という時間の中で、その差は静かに、しかし確実に積み上がっていきます。
なぜ「3つの組み合わせ」がこれほど効くのか
この話の本質は、一つの手法だけが効いているのではない、という点です。
A社長が享受しているのは、次の3つが重なった効果です。
役員報酬の最適化:個人の課税所得を適切なラインに抑えることで、所得税・住民税の税率を下げます。月30万円の削減でも、年間では課税所得が360万円変わります。
法人名義での物件保有:家賃収入を法人に流すことで、個人の累進課税を避けられます。法人税率は中小企業なら概ね23.2%以下。個人の最大43%と比べると、その差は歴然です。
法人での減価償却:建物の取得原価を毎年経費として計上できます。3,000万円の物件なら、年間数十万〜数百万円規模の経費が法人利益を圧縮し続けます。
この3つが揃ったとき、5年累計の手取り差が1,500万円規模に達することがあります。単純計算では年間約300万円。毎年の「選択の差」が、時間をかけてこれほどの金額になって現れるのです。
「もう買ってしまった」という方へ
「すでに個人名義で買ってしまった」という方も、すぐに諦めないでください。法人への売却や、次の物件から法人名義に切り替えるなど、状況によって取れる選択肢はいくつかあります。
ただし、役員報酬の変更には時期のルールがあります。原則として、決算日から3ヶ月以内に変更しなければ、その期中の変更は認められません。「購入を決めてから慌てて変える」では、タイミングが合わないケースがほとんどです。
だからこそ、不動産投資を「検討し始めた段階」で税理士に相談することが重要です。「買ってから相談」では、使えるはずだった手が一つ減っている、というケースが少なくありません。
不動産を視野に入れている経営者の方は、まず今の役員報酬が最適な設定かどうかを確認してみてください。そこから始まる節税の積み重ねが、5年後の手取りを大きく変えることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。