先日、ある社長からこんな連絡が来ました。

「法人税、今年また2,000万を超えそうで……顧問税理士には『これ以上は難しい』と言われているんですが、本当にそうなんでしょうか」

年商10億円規模の卸売業を営む、50代の社長です。このひと言を聞いて、私はすぐに気づきました。おそらく「一刀流」しかやっていない、と。

節税に「二刀流」がある

経営者向けの節税手法には大きく2つの柱があります。役員保険による損金計上と、法人不動産による減価償却費の活用です。

ほとんどの社長はどちらか一方しか使っていません。「検討したけど難しそう」と止まっている方も多い。でも、この2つを設計の段階から組み合わせると、節税効果が単純な足し算を超えることがあります。今回は、この「二刀流節税」の仕組みを、具体的な数字とともに整理してみます。

役員保険:年300万の保険料で120万が経費に

まず役員保険から確認しましょう。2019年に国税庁の通達が改正され、法人保険の損金算入ルールが大きく変わりました。

現在のルールでは、解約返戻率が70%超85%以下の保険については、保険期間の前半に保険料のおよそ40%を損金として計上できます。年間300万円の保険料を払っているとすれば、毎年120万円前後が経費になる計算です。

「毎年120万か、大したことないな」と思われるかもしれません。でも、これはあくまで保険単体の話。不動産を組み合わせると、まったく違う景色が見えてきます。

法人不動産:手元キャッシュを減らさず経費を積み上げる

収益不動産を法人名義で取得すると、建物部分を毎年少しずつ経費として計上できます。これが減価償却です。

例として、2億円の中古RC造マンションを法人で購入する場合を考えてみましょう。築年数や残存耐用年数によって金額は変わりますが、条件が揃えば年間600〜700万円の減価償却費が発生するケースもあります。

減価償却の最大のポイントは、実際の現金支出が伴わない経費という点です。物件を購入したあとは、帳簿上の利益だけを圧縮できる。手元のキャッシュを減らさずに、税金の計算上の利益を減らせるという構造です。

2つを組み合わせると課税所得が最大3,000万円動く

保険の損金120万円と、不動産の減価償却費600〜700万円を合計すると、年間で700〜800万円以上の課税所得圧縮ができます。

さらにそこへ役員報酬の最適化や、その他の合法的な経費計上を組み合わせると、課税所得全体を年間3,000万円近く圧縮できるケースもあります。法人実効税率は所得規模によって23〜34%の幅がありますが、これだけ圧縮できれば、節税額は年間900〜1,000万円規模になることも珍しくありません。

冒頭の社長が「これ以上は難しい」と言われていたのは、一刀流の話。二刀流の設計をまだ試していなかったのです。

気をつけたい3つの落とし穴

ただし、保険も不動産も、やみくもに取得すればいいわけではありません。

保険は出口設計がセットです。解約返戻金をいつ・どのように受け取るか、そのときの課税をどう処理するかまで織り込んでおかないと、節税のつもりが将来の税負担増につながることがあります。

不動産は耐用年数を先に確認してください。減価償却額は物件の築年数・構造・残存耐用年数によって大きく変わります。利回りよりも「どれだけ短期間で経費化できるか」を先に見るのが正しい順番です。

融資枠への影響も見落としがちです。法人で不動産を購入すると、金融機関からの評価が変わることがあります。本業の運転資金や設備投資のための融資枠を圧迫しないかどうか、キャッシュフローと合わせて必ず確認しましょう。

「今期、まだ間に合うか」を確認するタイミング

決算まで3〜6ヶ月以上あれば、二刀流設計を検討する余地があります。保険は比較的速やかに手続きを進められますが、不動産は物件探し・融資審査・決済まで数ヶ月かかるのが普通です。

まず自社の今期の課税所得見通しを出して、どちらの手をどの順番で打つか、信頼できる税理士と早めにすり合わせておくことをおすすめします。「まだ先の話」と思っているうちに、決算月が来てしまうことが一番もったいない。

保険と不動産を別々に考えていた方は、ぜひ一度「組み合わせたらどうなるか」という視点で試算を依頼してみてください。二刀流の設計は、一刀流の単純な倍以上の効果を生む可能性があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。