先日、年商12億円の製造業の社長からこんな質問を受けました。「保険と不動産、どっちが節税になるんですか?」。
その瞬間、「あ、どちらかを選ぼうとしているな」とピンと来ました。役員保険か、法人不動産か。でも本当においしいのは、この二つを組み合わせた「二刀流」なんです。バラバラに使っている社長がほとんどなので、今日はその設計の考え方をお話しします。
役員保険と法人不動産、なぜ相性がいいのか
役員保険(法人契約の生命保険や逓増定期保険)は、保険料の一部または全額を損金に算入できます。法人の利益を圧縮しながら、将来の退職金原資を積み立てられる。これが役員保険の基本的な仕組みです。
一方、法人で不動産を取得すると、建物部分の減価償却費を毎年費用として計上できます。鉄骨造なら34年、木造なら22年かけて落とせる。実際の現金支出はなく、帳簿の上だけで毎年大きな損金が立つのが特徴です。
この二つを組み合わせると、損金の積み上げ量がまったく違ってきます。
年3000万円の損金で何が変わるか
具体的な数字で見てみましょう。
役員保険料の損金算入部分が年間1200万円、法人所有の収益物件から計上できる減価償却費が年間1800万円。合計で年3000万円の損金を積み上げる設計です。
実効税率を34%とすれば、3000万円 × 34%=約1020万円の法人税削減になります。
同じ規模の会社でも、この設計ができている社長とそうでない社長では、10年間で1億円以上の手取り差が生まれます。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、これは決して珍しいケースではありません。
「出口戦略」まで一本の時間軸で考える
ここで多くの社長がやってしまう失敗が、保険と不動産をそれぞれ単体の節税ツールとして捉えることです。
役員保険は、解約返戻金が発生するタイミングで法人の雑収入になります。このとき同時に役員退職金を支払えば、退職金が損金になって課税の影響を相殺できます。つまり保険の解約と退職金の支払いを同じ決算期に揃えると、課税インパクトを最小化できる。
法人所有の不動産も同様で、引退時に個人に売却するか、会社ごと第三者に売却するか、あるいは相続まで保有するか、出口を想定して取得時の設計が変わります。
保険の満期・解約タイミング、退職金の支払い時期、不動産の出口——この3つを一本の時間軸に乗せて設計するのが、二刀流節税の本質です。
見落としがちな注意点:資金繰りを忘れない
損金の積み上げは魅力的ですが、保険料も不動産の取得資金も、当然キャッシュが出ていきます。利益は減らせても、手元の現金が細くなれば本末転倒です。
役員保険は毎月のキャッシュフローに継続的な影響を与えます。不動産は取得時に大きなキャッシュアウトがあり、ローンを組めば毎月の返済が発生します。「利益は出ているのに資金繰りが苦しい」という状況を作らないために、向こう3〜5年のキャッシュフロー計画を必ず確認したうえで動いてください。
動くタイミングは決算の3〜4ヶ月前
二刀流設計は、今期の利益がある程度見えてきた決算の3〜4ヶ月前に動くのが理想です。
不動産の取得には時間がかかりますが、役員保険は比較的スピーディーに手が打てます。まず保険から着手しながら、中長期の計画として不動産取得を組み合わせていく段階的なアプローチを取る社長が多いです。
年商5億〜30億円のレンジで利益率が10%を超えている会社なら、この設計を本格的に検討する価値は十分あります。自社がどの損金をどれくらい積み上げられるか、今期の決算予測が固まってきたタイミングで一度試算してみることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。