先日、年商2億円台の製造業を経営する社長から、こんな相談を受けました。「毎月100万円もらってるのに、全然手元に残らないんですよね」。

その社長の役員報酬は年間1,200万円。数字だけ聞けば十分に高水準です。でも所得税・住民税・社会保険料を合わせると、実質的な手取りは年800万円前後にまで圧縮されていました。稼いだうちの3分の1以上が、気づかないうちに消えていくわけです。

年収1,000万円超からが「税の崖」

役員報酬を高く設定することには、住宅ローンの審査や社会的な信用といったメリットがあります。ただ、年収1,000万円を超えてくると、所得税の限界税率が33〜40%に跳ね上がります。住民税10%、社会保険料も含めると、税・保険料の合計負担率は50%近くに迫ることがあります。

1,200万円受け取っても、手元に残るのは700万円前後。それが現実です。

ここで「知っている社長」と「知らない社長」の差が大きく開きます。

3つの設計を束ねると何が起きるか

知っている社長は、役員報酬の高さをそのままにするのではなく、「どこで・どう課税されるか」を設計します。使うパーツは3つです。

① 法人で不動産を取得し、減価償却を積む

個人で不動産を買うのではなく、法人名義で取得します。建物部分は減価償却費として毎年経費計上できるため、法人の課税所得を継続的に押し下げられます。法人の実効税率は所得規模にもよりますが、おおむね23〜34%程度です。個人の最高税率55%(所得税+住民税)と比べると、課税を受ける主体を変えるだけで、税率の差を活かせます。

将来的に物件を売却して収益が出る場面でも、個人の不動産譲渡税率との比較で有利になるケースがあります。

② 役員社宅制度で家賃負担を削る

これは意外と見落とされています。法人が住宅を借り上げ、役員に社宅として貸し出す仕組みです。税務上、役員が自己負担すべき家賃の計算式が決まっており、市場家賃より低い金額で住居を確保できるケースがあります。

差額分は会社が負担しますが、福利厚生費として処理できる場合があります。毎月数万円単位でキャッシュフローが改善されることもあります。

③ 税率が跳ね上がる部分を法人留保に転換する

役員報酬を一律高くするのではなく、個人の税率が急激に上がる水準を超えた分は、あえて報酬として受け取らず、法人に残す設計です。法人に資金を置いておけば、設備投資・退職金・事業承継の原資として将来活用できます。

「今すぐ手取りを増やす」のではなく「将来、低い税率で受け取る仕組みをつくる」という発想の転換です。

設計を重ねた結果

①②③を組み合わせると、個人での高税率運用と比べて税負担が約50%減になった事例があります。物件の取得状況や報酬規模によって効果は変わりますが、3つを束ねることでシナジーが生まれます。単体では小さな変化も、設計として組み合わせることで大きな差になります。

やるべきタイミングと押さえておくべき注意点

役員報酬は原則として、決算から3ヶ月以内の定時改定しか認められていません(業績が著しく悪化した場合などは例外があります)。不動産の取得も、期末直前の駆け込みでは減価償却が1年分取れないこともあります。

「決算が終わってから考えよう」では、毎年ワンテンポ遅れ続けます。次の期の設計は、今の段階から動き始める必要があります。

また、役員社宅の計算方法や法人留保のバランスは、会社の資本金・所得規模・事業形態によって最適解が変わります。「他社でうまくいったスキーム」をそのまま流用するのではなく、自社の数字に当てはめた検証が不可欠です。

役員報酬の設定を何年も見直していない、不動産はすべて個人名義で持っているという状況なら、今期中に一度シミュレーションをするだけでも大きく変わる可能性があります。担当の税理士に「法人での不動産取得と社宅制度、あわせて試算してほしい」と一声かけることから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。