先日、3棟の収益ビルを所有している不動産管理会社の社長から、こんな相談を受けました。

「過去の修繕費が一部しか経費になっていなかったと顧問税理士に言われたんですが、今から取り戻せますか?」

答えは「場合によっては取り戻せる」でしたが、その社長のケースではすでに一部の年度は手遅れでした。5年という壁を、誰も教えてくれていなかったのです。

「取り戻す期限」があることを知っていますか

法人税の申告において、過去の経費計上漏れを修正する手続きを「更正の請求」といいます。簡単に言えば、「本来経費になるはずだったのに計上されていなかった分を後から申告し直す」制度です。

ただしこれには明確な期限があります。法定申告期限から 5年 を超えると、更正の請求そのものができなくなります。2021年3月期決算の法人であれば、2026年3月が最終ラインです。

この期限を過ぎると、どんなに大きな計上漏れがあっても、取り戻す権利は永久に消えてしまいます。消えるのはお金だけではなく、「やり直せる機会」そのものです。

不動産の経費は「漏れやすい」構造がある

不動産を保有する法人に特有の問題として、修繕費や設備関連の費用には判断が難しいものが多いという点があります。

建物の修理費用が「修繕費(即時経費)」なのか「資本的支出(減価償却資産)」なのかは、金額や工事の内容によって変わります。実務では保守的に判断されやすく、本来は修繕費として一括計上できるものが減価償却に回されているケースが少なくありません。

エレベーターのメンテナンス費用、外壁塗装の一部、空調設備の交換費用——こうした支出が担当者の交代や決算の混乱で埋もれていることもあります。3〜5年分を積み上げると、計上漏れが500万円を超えるケースは珍しくありません。

実効税率が約30%とすれば、150万円前後の還付 が見込める計算です。気づいていないだけで、すでにそれだけの権利が手元にある可能性があります。

税務署はあなたに有利な情報を教えてくれない

ここで一つ、重要な話をしておきます。

税務署は、あなたが余分に払った税金について、自ら教えてくれることはありません。税務調査では「払い漏れ(追徴)」はしっかり指摘されます。一方で「取り戻せる経費(還付)」については何も言わずに終わるのが通例です。

税務署の仕事は税金を正確に徴収することであり、あなたの節税を最適化することではないからです。だからこそ、自分から動く必要があります。待っていても、誰も助けに来てはくれません。

2026年が「最終期限」の法人も多い

2026年は、2021年(令和3年)3月期決算の法人にとって更正の請求の最終期限にあたります。

コロナ禍の2020〜2021年頃は、業務の混乱や資金繰り対応に追われ、経費の整理が後回しになっていた法人も多いはずです。あの時期に修繕工事や設備投資を行っていたなら、今すぐ確認することをおすすめします。

「うちは大丈夫」と思っている社長ほど、実際に専門家が調べると漏れが見つかることが多いのも事実です。特に、担当税理士が変わっていたり、自社で経理を処理していたりする法人は要注意です。

「調べるだけ」でも十分に価値がある

「税理士に頼んだら費用がかかる」と思うかもしれません。ただ、計上漏れが見つかった場合の節税額と比較してみてください。

150万円を取り戻せる可能性があるなら、調査にかかる費用は十分に元が取れます。顧問税理士への相談であれば、費用ゼロでヒアリングしてもらえる場合もあります。

「3年分の経費を洗い出してもらったら100万円以上戻ってきた」——そういう話は、不動産を持つ法人では決して珍しくありません。問題は、動いたかどうかだけです。


まだ過去3〜5年分の経費を見直したことがないなら、今期中に一度、顧問税理士に「不動産の修繕費や設備費の計上漏れがないか確認してほしい」と一声かけてみてください。それだけで数百万円の機会損失を防げるかもしれません。期限が来たら、誰も何もできません。動けるのは今だけです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。