先日、ある製造業の社長から相談を受けました。「役員報酬を1,500万円に設定して10年になるのに、なぜかお金が貯まらない」と。\n\n試算してみると、所得税・住民税・社会保険の合計負担が年間530万円を超えていました。手取りは970万円ほど。月に換算すると80万円程度です。「会社はそこそこ利益が出ているのに」とおっしゃっていましたが、実は法人と個人が”バラバラに動いている”ことが原因でした。\n\n## 法人と個人を別々に動かしていると、両方から削られる\n\n多くの社長が見落としているポイントがあります。それは、法人の税負担と個人の税負担を「別々の問題」として捉えてしまっていることです。\n\n役員報酬を受け取って個人で所得税を払い、法人は法人で利益に対して法人税を払う。この構造のまま「節税したい」と考えると、どちらか一方を最適化するだけで終わります。\n\n本当に手取りを増やすには、法人と個人を一体として設計する視点が必要です。その方法として、不動産を絡めた3つの手が特に効果的です。\n\n## 手①:法人で収益物件を購入し、減価償却で利益を圧縮する\n\n法人が不動産を購入すると、建物部分を毎年「減価償却費」として経費計上できます。\n\n木造なら法定耐用年数は22年、RC造なら47年。ただし、築年数の古い物件は残存耐用年数が短くなるため、短期間に大きな減価償却費を計上できます。たとえば築25年の木造物件なら、耐用年数はわずか4年。取得費用の大部分を4年以内に経費化できる計算です。\n\n決算期の利益が膨らみそうなタイミングに合わせて物件を取得し、その期の減価償却費として計上する。これだけで法人税負担を大幅に圧縮できます。\n\nただし、あくまで不動産としての収益性が前提です。節税目的だけで赤字物件を抱えると、長期的には資金繰りを圧迫します。物件選びは収益性と節税効果の両面から判断してください。\n\n## 手②:役員社宅を設定し、住居費を法人の経費にする\n\n「社宅は従業員向けの制度」と思っている社長は多いのですが、役員にも使えます。\n\n仕組みとしては、会社が物件を賃借(または購入)して、役員に対して適正賃料で貸し出す形になります。適正賃料は税務上の計算式で算出され、市場家賃よりかなり低くなるのが一般的です。差額が法人の経費として認められます。\n\n仮に市場家賃が月30万円の物件を会社が借りて、役員が月6万円を負担する設定にすれば、差額24万円が法人経費に。年間で288万円の経費化になります。役員は住居費の実質負担が減り、会社は法人税を節税できる、双方にとって合理的な設計です。\n\n注意点は、役員の負担賃料が税務上の「適正賃料」を下回ると、差額が給与として課税されるリスクがあること。必ず税理士に計算を依頼した上で設定してください。\n\n## 手③:個人の不動産損失を役員報酬と損益通算する\n\n個人名義で不動産を所有している場合、不動産所得が赤字になれば給与所得と損益通算できます。\n\n不動産所得の赤字が生じるのは、賃料収入より経費(減価償却費・修繕費・借入利息など)が上回るケースです。たとえば役員報酬が1,500万円ある状態で、個人の不動産所得が年間△300万円なら、課税所得を1,200万円まで圧縮できます。\n\n所得税の最高税率は45%(住民税と合わせると55%超)の水準に達しますから、課税所得が300万円圧縮されると、単純計算で100〜150万円規模の節税効果が生まれます。\n\nただし、土地の取得に要した借入金の利息は損益通算の対象外というルールがあります。また、不動産の規模や事業性の有無によっても扱いが変わります。「損益通算できると思っていたのにできなかった」という事態を避けるため、物件取得前に税理士と設計を詰めることが重要です。\n\n## 3つを組み合わせると年間200〜400万円の差が生まれる\n\n①法人の減価償却で法人税を圧縮、②役員社宅で住居費を法人経費化、③個人の不動産損失で損益通算——この3手を状況に応じて組み合わせると、同じ役員報酬でも年間200万円から400万円の手取り差が生まれることがあります。\n\nどれか1つを使えばいいというものでもなく、法人の規模・役員報酬の水準・個人の資産状況によって最適な組み合わせは変わります。設計を誤ると逆に課税リスクを招くこともあるため、専門家と一緒に進めることが前提です。\n\n役員報酬が一定の水準に達してきた、あるいは不動産を法人と個人のどちらで持つか迷っている——そんな状況にある社長は、ぜひ「法人と個人の一体設計」という視点で、一度試算を依頼してみてください。数字が変わるだけでなく、お金の残り方の感覚も変わってきます。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。