先日、ある製造業の社長とお話をしていたときのことです。「年収2,000万円あるのに、なんで手残りがこんなに少ないんだろう」と首をかしげていました。計算してみると、所得税・住民税・社会保険料を合わせた実効税率は約40%。年間800万円近くが税金として消えていたのです。
「役員報酬を上げるほど損をする」という、少し皮肉な現実に直面しているオーナー社長は少なくありません。
役員報酬だけを上げても、手残りは増えない
役員報酬は給与所得ですから、高額になるほど所得税率が上がります。課税所得が4,000万円を超えると最高税率45%が適用され、住民税10%を足すと55%。稼いだお金の半分以上が税金になる計算です。
社会保険料も無視できません。健康保険・厚生年金の保険料は標準報酬月額の上限で頭打ちになりますが、それでも年間100万円以上の負担になることもあります。
結局のところ、役員報酬を引き上げるだけでは、増えた分の多くが税金に吸い取られてしまうのです。
「知っている社長」が使う3つの設計
では、賢い社長たちは何をしているのか。ポイントは「不動産」と組み合わせることです。3つのパターンを順番に見ていきましょう。
① 法人で収益不動産を購入し、減価償却で法人税を圧縮
法人が収益不動産(賃貸マンションや駐車場など)を購入すると、建物部分を減価償却費として毎年経費に計上できます。木造アパートなら22年、鉄骨造なら34年、RC造なら47年にわたって経費化できる仕組みです。
仮に1億円の物件のうち建物部分が7,000万円だったとすると、年間で数百万円規模の減価償却費が生まれます。これが法人の利益を圧縮し、法人税の負担を軽くしてくれます。
法人税の実効税率は現在おおむね30〜35%です。個人の最高税率55%と比べると、利益を法人内に留保するほど有利になる場合があります。物件の収益性と合わせて試算すると、思わぬ節税効果に気づくことがあります。
② 役員社宅制度で、住居費を法人経費に変換する
これは知っているかどうかだけで大きな差が出る制度です。法人が物件を借り上げて社長に社宅として貸し出せば、家賃の大部分を法人経費として処理できます。
税法上の賃料相当額(自己負担額の目安)は物件の広さや価額によって計算式が決まっていますが、家賃の10〜20%程度を社長が会社に支払えば、残りを法人経費にできるケースが多いです。
月30万円の家賃の物件なら、社長の自己負担は3〜6万円程度。差額の24〜27万円分が法人経費になります。年間にすれば300万円近い節税効果になることもあります。これだけで実効税率が数ポイント変わってきます。
③ 不動産所得との損益通算で、個人の税負担を最適化
不動産投資では、特に物件購入初年度や築古物件では経費(減価償却費・ローン利息など)が収入を上回り、不動産所得がマイナスになることがあります。
この赤字は給与所得(役員報酬)と損益通算することができます。不動産所得が年間200万円の赤字になれば、課税所得が200万円圧縮され、税率33%なら66万円の所得税節税につながります。
ただし損益通算には細かいルールがあります。土地の取得にかかったローン利息は損益通算から除外されますし、いわゆる「租税回避スキーム」とみなされる設計は税務否認リスクがあります。この点は必ず税理士と確認してください。
3つを組み合わせると、どうなるのか
3つのパターンを組み合わせた場合、理論上は実効税負担を50%程度減らせる設計が可能になるケースもあります。ただしこれはあくまで「条件が整った場合の最大値」です。
物件の立地・築年数・ローン条件、会社の利益水準、社長の個人的な状況によって効果は大きく変わります。「不動産投資=節税」と短絡的に考えると、本業の収益を食いつぶすリスクもゼロではありません。
投資としての収益性と、税務上のメリットを両輪で考えることが重要です。
今期の役員報酬設計を見直すなら今がチャンス
役員報酬は原則として事業年度開始から3ヵ月以内にしか変更できません(定期同額給与のルール)。報酬額を変えたい場合は、決算前ではなく次の期の開始直後が唯一の窓口です。
今の役員報酬体系が本当に最適かどうか、一度税理士と試算してみることをおすすめします。「何もしていない」ことは、毎年数百万円を損しているのと同義かもしれません。不動産との組み合わせを検討するなら、まずは現状の税負担の数字を把握するところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。