先月、RC造の賃貸物件を2棟持っているという製造業の社長から、こんな相談がありました。「確定申告のたびに所得税が増えていて、個人では限界かもしれない。法人に移したほうがいいのか?」

このご相談、最近とても多いんです。不動産は「持っているだけで節税になる」と思われがちですが、個人名義で持ち続けると、ある段階から税負担がじわじわ重くなってきます。

個人で持ち続けるほど、税率が上がっていく

個人の不動産所得は、給与や事業所得と合算して総合課税されます。所得税の最高税率は45%、住民税を合わせると実質55%。物件が増えて賃料収入が積み上がるほど、高い税率が適用されるしくみです。

しかも個人では、計上できる経費の種類に限りがあります。固定資産税・管理費・修繕費・減価償却費・借入利息が主なもので、それ以外はなかなか認められません。「利益が出るほど損をする」という感覚、持ったことがある方も多いのではないでしょうか。

法人にすると、経費の積み方がまったく変わる

法人が不動産を保有すると、経費の組み立て方が根本から変わります。

仮に1億5,000万円のRC造物件を法人名義で購入したとしましょう。建物部分が1億円として、法定耐用年数(RC造は47年)の定額法で計算すると、年間の減価償却費は約210万円になります。

これに借入利息が年間180万円、管理費・修繕費積立が年間30万円と積み上げると——合計で年400万円超の経費が生まれます。

個人では「所得が出てからの節税」ですが、法人では「経費を積み上げて利益を圧縮する」発想で設計できる。ここが大きな違いです。

10年続けると、その差は累計900万円

法人の実効税率を約23%として計算すると、年400万円の経費に対して節税額は年約90万円。それが10年続くと、累計で約900万円の差になります。

同じ物件を持ち続けていても、名義が変わるだけでこれだけの差が生まれる。改めて数字にしてみると、「なぜ個人で持ち続けているのか」という気になりますよね。

落とし穴:移転コストを必ず先に試算する

ただし、「すぐ法人に移せばいい」という話でもありません。個人から法人へ物件を移転するには、不動産取得税・登録免許税などが発生します。物件規模によっては数百万円の移転コストがかかることもあります。

「節税効果が出るまでの回収期間は何年か?」を試算せずに動くと、短期的にはむしろコストが増えるケースがあります。また、法人の維持コスト(社会保険・決算申告・役員報酬設計など)も忘れずに見ておく必要があります。

次の取得から法人名義にするのが一番シンプル

移転コストの問題を回避する最もスマートな方法は、次の物件取得から最初から法人名義で購入することです。これなら移転コストはゼロ。最初から減価償却・利息・管理費をフルに損金計上できます。

既存物件の法人化を急ぐよりも、「次から法人で」という戦略のほうがコスパよく節税効果を得られるケースは多いです。

物件の規模・借入条件・現在の所得水準・相続プランによって、最適な答えは一人ひとり違います。「法人化=絶対得」と一概には言えませんが、「もし今の物件が法人名義だったら?」という問いを、実際の数字で試算してみることが最初の一歩です。

今後の物件取得を考えている方は、購入前に法人スキームを前提にした設計を税理士と議論しておくことを強くおすすめします。今期中に一度、現状の経費設計を見直してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。