先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「報酬を1,200万円もらってるんですが、手取りが思ったより全然少なくて。税金って、これ以上どうにかならないんですかね?」
都内で製造業を営む40代の社長です。会社の業績は順調で、売上は右肩上がり。なのに毎月の手取りが思ったように増えない——こういう悩みを持つ社長は、実はとても多いです。
そのとき私が最初に聞いたのは、「今、どこにお住まいですか?」という一言でした。
高額報酬の社長ほど「住む場所」が重要になる
役員報酬が1,200万円を超えると、所得税の最高税率45%が適用される領域に入ってきます。住民税10%も合わせると、報酬の半分以上が税金と社会保険料に消えていく計算です。
「それなら報酬を下げて、会社にお金を残せばいい」と考える社長もいますが、それはそれで生活費が足りなくなったり、会社に溜まったお金の使い道という別の問題が生じます。
もう一つのアプローチが、「受け取る形を変える」こと。その中でも効果が大きいのが、法人所有の不動産を使った社宅活用です。
仕組みの骨格:低額家賃と損金算入の組み合わせ
法人が不動産を取得し、役員がそこに住む——基本形はシンプルです。
ここで重要なのが、役員が法人に支払う家賃の額です。国税庁の通達には、社宅家賃の計算式が定められていて、この式で算出した金額は一般的な市場家賃よりも大幅に低くなるケースがほとんどです。つまり、役員は格安で住めて、差額分は実質的な給与の代替として機能します。
一方、法人側では次のコストをすべて損金として算入できます。
- 建物の減価償却費
- 取得時の借入利息
- 管理費・修繕費
- 固定資産税
都内の物件であれば、これらを合計すると年間500〜700万円を超えることも珍しくありません。法人税の実効税率(おおむね33〜35%)で計算すると、年間300万円前後の節税効果が見込める場合があります。
冒頭の社長にこの試算をお見せしたとき、「なんで誰も教えてくれなかったんですか」と苦笑いしていたのが印象的でした。
「経費=節税額」という根強い誤解
ここで必ず押さえておきたいポイントがあります。
「1,000万円の経費を作れば、1,000万円の節税になる」と思っている社長が意外に多いのですが、これは完全な誤解です。節税額は、経費額に実効税率をかけた金額です。
損金算入額が1,000万円あっても、実効税率33%なら節税額は330万円。残りの670万円は現金で出ていきます。キャッシュを使って税金を圧縮している、という視点を忘れないようにしてください。
だからこそ、物件選びは慎重に行う必要があります。節税効果だけでなく、将来の売却時の値崩れリスク、賃貸需要、金利水準——これらを総合的に判断しなければ、節税どころか資産を目減りさせることにもなりかねません。
設計で必ず確認すべき3点
通達の区分を正確に把握すること。 国税庁の通達には「小規模住宅」「一般住宅」「豪華社宅」の3区分があり、床面積や評価額によって適用ルールが変わります。豪華社宅に該当すると、市場家賃相当額が役員給与とみなされ、節税効果がゼロどころかマイナスになることもあります。
法人と役員の資金フローを明確にすること。 家賃の入金、管理費の支払い、減価償却の記帳——これらを曖昧にしたまま運用していると、税務調査で「実態のない取引」と指摘されるリスクがあります。
出口戦略まで設計に含めること。 役員退任時、物件売却時、相続発生時——それぞれの局面で課税上の問題が生じないよう、入口の設計段階から逆算しておくことが大切です。
報酬を下げる前に、住む場所を見直す
冒頭の社長には、「報酬を減らす前に、まず住まいの形を変えることを検討してみませんか」とお伝えしました。
手取りを増やす方法は、もらう額を増やすことだけではありません。支払う税金の総量を、合法的な設計で減らすこと——これが、高額報酬の社長に残された有力な選択肢の一つです。
今、自己所有の住宅に住んでいて、会社が住居費に一切関与していないなら、一度試算だけでも依頼してみてください。年間300万円の差が出るかどうか、数字で確認するだけなら今すぐできます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。