先月、ある建設会社の社長から電話がありました。「顧問税理士から『報酬額を見直した方がいい』と言われたんだけど、数年前にちゃんと最適化したはずなのに、なぜ今さら?」という内容でした。
その社長は役員報酬をしっかり設定し、法人で収益物件も保有している。節税の仕組みは整っているはずなのに、なぜ動き直す必要があるのか。答えは令和7年度の税制改正にあります。
基礎控除が10万円上がると何が変わるのか
今回の改正で、個人の基礎控除が10万円引き上げられました。「たった10万円」と思うかもしれませんが、役員報酬の節税設計においてはこれが結構大きい。
役員報酬の「最適額」は、個人の所得税・住民税と法人税の合計をもっとも小さくする水準のことです。基礎控除が変わると、その計算式がまるごとリセットされます。数年前に緻密に設定した報酬額が、改正後には「微妙にズレた状態」になっているケースが続出しています。
年間の報酬額がたとえば150万円のズレでも、所得税率の段階によっては税負担が年間30〜50万円変わることがあります。1年では大きく見えなくても、10年続けば300〜500万円の差になります。
法人不動産との組み合わせが問題を複雑にする
特に注意が必要なのは、「役員報酬の最適化+法人で不動産を保有して減価償却」という複合節税を使っている社長です。
この2つは連動しています。法人の不動産から減価償却費が多く出る年は、法人の課税所得が下がります。ということは、役員報酬を多めに取って個人で税を払うより、法人に利益を残す方が有利になる局面もあります。逆に、減価償却が一巡して法人の利益が膨らんでくる時期は、役員報酬を増やして個人側に分散した方がいい。
このバランスは、物件の耐用年数や取得時期によって毎年変わります。そこに今回の基礎控除改正が重なると、かつて最適だった報酬額が、今の状況では最適でなくなっている可能性が高いのです。
ある不動産オーナー社長の事例では、報酬を年間100万円調整することで、個人と法人を合算した実効税負担が約40万円減りました。「たったそれだけ」ではなく、毎年40万円が積み上がっていくと考えると、決して小さい話ではありません。
今期を逃すと1年待つことになる
役員報酬の変更には、大事なルールがあります。原則として、事業年度開始から3ヶ月以内に決議しなければ、損金算入が認められません。期中で「やっぱり変えよう」では税務上の効果が出ないのです。
今期の決算が近い社長は、すでにタイムリミットが迫っています。新期の最初の取締役会で変更を決議しないと、また丸1年、ズレたままの報酬額で走り続けることになります。
「来期に入ったら考えよう」という発想は、言い換えると「今期も損をし続けることを選ぶ」ということです。改正の影響は2026年度から本格的に効いてきます。早く動くほど、メリットを享受できる期間が長くなります。
対策はシンプル:2つを同時に計算する
やるべきことは、それほど複雑ではありません。
役員報酬の最適額を再計算するとき、法人不動産の減価償却スケジュールを同時に織り込んで試算することです。「今期の減価償却費はいくら出るか」「それを踏まえると法人と個人、どちらに利益を置いた方が得か」「改正後の基礎控除を反映すると最適報酬はいくらか」——この3点をセットで見直すのが正しいアプローチです。
顧問税理士に「基礎控除の改正を踏まえた役員報酬の見直し試算をお願いしたい」と一言伝えるだけで動いてもらえるはずです。もしそういった提案がまだ来ていないのであれば、こちらから切り出してみてください。
今期中に動けるかどうかで、来年の手取りが変わります。改正のタイミングを「自分ごと」として捉えた社長だけが、着実に節税効果を維持していけます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。