先日、不動産法人を持つある社長からこんな相談を受けました。「法人の口座に家賃収入がどんどん貯まっていくのに、自分の手元にはほとんど残らない。何かがおかしいと思って……」

この社長、年間の家賃収入は約2,000万円。でも法人から個人へのお金の動かし方をきちんと設計できておらず、法人口座にお金が溜まるだけで、個人の生活費は別の収入で賄っているという状態でした。

こうしたケース、実は珍しくありません。不動産法人を設立したものの、「どうやって個人にお金を戻すか」の設計がないまま、何年も運用し続けている社長が多いのです。

法人に溜め込むだけでは、節税の恩恵は半分以下

不動産法人を作る最大のメリットのひとつは、法人と個人の税率差を活かした節税です。でも、法人口座にお金を積み上げているだけでは、そのメリットをフルに享受できているとは言えません。

法人に利益が残ると、法人税がかかります。中小法人の実効税率はおよそ33〜34%。さらにその利益を個人に配当として出そうとすれば、配当課税も上乗せされます。二重課税の構造です。

一方、毎月の役員報酬として受け取る場合はどうでしょうか。話がまったく変わってきます。

役員報酬は「法人の損金」として全額落とせる

役員報酬は、法人にとって全額損金(費用)として計上できます。つまり、法人の課税所得を直接減らせる強力な武器です。

たとえば月50万円、年間600万円の役員報酬を設定したとします。法人の利益が1,000万円あったとすれば、役員報酬600万円を差し引いた400万円にしか法人税がかかりません。それだけで法人税の負担は大幅に軽くなります。

さらに個人側でも恩恵があります。給与所得には「給与所得控除」が自動的に適用されるからです。年収600万円の場合、この控除額は164万円。課税対象になるのは600万円ではなく436万円になります。

法人でも個人でも、同時に税負担が下がる。これが役員報酬設計の本質です。

なぜ「月50万円」がひとつの目安になるのか

役員報酬の最適額は、法人の利益水準・個人の生活費・社会保険料のバランスで決まります。どこにでも使える正解はありません。

ただ月50万円・年600万円というラインは、多くの不動産法人オーナーにとってバランスの取れる水準のひとつです。法人の課税所得を大きく下げつつ、給与所得控除を効かせながら、社会保険料の負担がまだ現実的な範囲に収まります。

注意したいのは、役員報酬を増やしすぎると社会保険料の負担も増えるという点です。どこかで「これ以上増やしても手取りが増えない」という逆転ポイントが来ます。法人の利益水準とご自身の他の収入を合わせて、顧問税理士と一緒にシミュレーションしてみることをおすすめします。

必ず知っておくべき「定期同額給与」のルール

ここで絶対に外せないのが「定期同額給与」のルールです。

役員報酬が損金として認められるためには、毎月同額を定期的に支払い続けることが条件です。たとえば4月から月50万円に設定したのに、9月に「業績が良いから60万円にしよう」と変更してしまうと、差額の10万円部分が損金不算入になってしまいます。

変更が認められるのは原則として期首から3ヶ月以内のみ。年度が始まったばかりのタイミングだけが、設計を見直せる唯一のチャンスです。「業績を見てから決めよう」では手遅れになります。

期首に最適額を設計し、その金額で1年間走り切る。この覚悟が、定期同額給与のルールを守るうえで必要な心構えです。

「今期も変えなかった」の繰り返しをやめるために

不動産法人を持ちながら、役員報酬を低く設定したまま、あるいはゼロのまま何年も放置している社長は想像以上に多いです。「面倒くさそう」「変えてもいいのかよくわからない」という声を、相談の現場でよく聞きます。

でも、月50万円の役員報酬を設定するだけで、年間600万円が法人の損金になり、個人では164万円の給与所得控除まで使えます。何もしなければ、その分だけ余計な税金を毎年払い続けることになります。

設計のタイミングは1年に1度しか来ません。来期の期首が近づいているなら、今すぐ顧問税理士に「役員報酬の見直しを相談したい」と一本連絡を入れてみてください。その一言が、数十万円単位の差になることもあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。