先日、年商2億円ほどの製造業を経営するA社長と話していたとき、こんな言葉が出てきました。

「利益は出てるんだけど、税金払ったら手元に全然残らないんだよね」

決算書を見せてもらうと、役員報酬が年間3,000万円。社長個人への所得が厚い一方で、法人の内部留保はほとんどない状態でした。一見すると「しっかり稼いでいる社長」なのに、なぜか手元にお金が残らない——その原因は、税率の設計にありました。

「給料を多くもらっている」=実は損している可能性

多くの社長が無意識に「会社の利益は全部自分の給料にしてしまえ」と考えています。確かに法人税を抑える効果はあります。でもここに大きな落とし穴がある。

個人の所得税は課税所得が4,000万円を超えると税率45%。住民税10%と合わせると、最大55%が税金で消えていきます。年収3,000万円の役員報酬でも、実効ベースで見ると55%近い税負担になるケースは珍しくありません。

手取り1,350万円のために、1,650万円を税金で払っているとしたら——そう考えると少し怖くなりますよね。

法人に所得を残すと、税率はどう変わる?

一方、法人の実効税率は所得800万円以下の部分で約21〜23%程度(中小企業の軽減税率適用時)。個人の最高税率55%と比べると、30ポイント以上の差があります。

役員報酬を少し下げて、その分を法人に所得として残す。それだけで、同じ利益に対してかかる税率が大幅に変わります。

もちろん「法人に残しても、どうせ将来また自分が使うときに課税される」という反論はあります。でも、タイミングと方法次第でその課税を最小化することができる。そこで組み合わせるのが不動産です。

不動産の減価償却で、法人の課税所得をさらに圧縮する

法人で不動産(収益物件)を購入すると、建物部分を減価償却費として毎年の経費に落とせます。この仕組みがうまく機能すると、実際には現金が出ていないのに帳簿上の利益が大幅に圧縮される。

たとえば1億円の中古木造アパートを法人で購入した場合、耐用年数の残りが4年なら年間2,500万円の減価償却が取れることもあります。これが法人の課税所得をまるごと吸収してくれる。

結果として、法人の税負担がほぼゼロになるケースも出てきます。

2つを組み合わせると、何が起きるか

ここまでの話をまとめると、戦略の核心はこうです。

まず、役員報酬を最適な水準に調整する。社長個人の所得税率が下がるラインを意識しながら、法人にも一定の所得が残るように設計する。次に、法人が保有する不動産の減価償却で、法人に残った課税所得を圧縮する。

この2つがかみ合うと、個人と法人を合わせた実質的な税負担率が、何も考えずに役員報酬だけで所得を引き出していたときと比べて、20%程度変わるケースも出てきます。

金額にすると——年間利益が3,000万円の会社なら、600万円前後の差になり得る。10年続ければ6,000万円です。これは無視できる数字ではありません。

やり方を間違えると逆効果になる

ただし、この戦略は設計を間違えると効果が出ないどころか、逆効果になることもあります。

役員報酬は期首から3ヶ月以内にしか変更できないルールがあります(定期同額給与)。思い立ってすぐに変えようとしても、その期は間に合いません。

不動産についても、購入タイミング・物件種別・法人の規模感によって効果が大きく変わります。「とにかく減価償却が取れる物件を買えばいい」というほど単純ではないのが難しいところです。

個人の所得と法人の所得のバランス、不動産の購入時期、出口戦略——この3つを一体で設計しないと、部分最適の積み上げになってしまいます。

今期の役員報酬、一度見直す価値があります

もし「役員報酬をできる限り高くして法人税を抑えている」という設計になっているなら、一度立ち止まって確認してみてください。

それが本当に最適なのか、個人の実効税率が跳ね上がっていないか。そのチェックを次の決算前にやっておくだけで、来期以降の手元資金は変わってきます。

今の税率構造のまま5年・10年と続けるのか、それとも今期から設計を変えるのか——その選択が、将来の資産形成に大きく効いてきます。まずは顧問の税理士に「役員報酬の最適化と不動産の組み合わせを見直したい」と相談してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。