「先月の振込、1円少なかったみたいで……」

そんな電話が経理担当者から入ったとき、多くの社長は「あ、そう。次月に調整しといて」と軽く返してしまいます。でもその一言が、年間400万円超の節税を丸ごと吹き飛ばすことがあるのです。

役員報酬を経費にするには「定期同額」が絶対条件

法人税の計算において、役員報酬を損金(経費)として認めてもらうには、「定期同額給与」という要件を満たす必要があります。

要件はシンプルです。毎月、まったく同じ金額を支給し続けること。ただそれだけ。しかし「まったく同じ」というのが曲者で、1円でもズレてしまうと、その月の役員報酬は定期同額給与の要件を失うリスクがあります。

「たった1円でそんなことに?」と思うかもしれません。でもこれが税務の世界のルールです。

1円のズレで実際いくら損するのか

月100万円の役員報酬を12ヶ月受け取るとします。法人税率を34%とすると、年間の節税効果は約408万円。

ここで定期同額の要件を外れた月が発生すると、その月の100万円が損金不算入とされます。仮に3ヶ月分が否認されれば、追徴される法人税だけで約102万円。さらに過少申告加算税(原則10〜15%)や延滞税が上乗せされることを考えると、トータルの痛みは相当なものになります。

月200万円の役員報酬なら、1ヶ月の損金不算入で68万円以上の追徴が発生します。金額が大きいほど、ミスのダメージも跳ね上がります。

よくある「1円ズレ」の原因3パターン

現場でよく見かけるのは、次の3つのケースです。

振込手数料の端数処理 報酬額から振込手数料を差し引いた金額を振り込んでしまうケース。担当者の善意による処理ですが、振込額が変わった時点でアウトになります。

月ごとのまとめ払い 「今月は資金繰りが厳しいから来月にまとめて」という判断も、定期同額の観点では問題になります。支給のタイミングも含めて要件が問われます。

単純な入力ミス 打ち間違いや前月データのコピーミスなど、ヒューマンエラーによるズレです。悪意はなくても、税務調査では「記録として残った事実」しか見てもらえません。

税務調査で何が起きるか

調査官は、毎月の振込記録と設定された役員報酬額を1円単位で照合します。一致しない月があれば、「その月の報酬は定期同額給与に該当しない」として損金不算入の指摘が入ります。

「経理担当者が間違えたもので、故意ではないんです」という説明は通りません。証拠として残っているのは振込記録だけです。どれだけ誠実に経営していても、数字が合わなければ指摘を受けます。

すぐに始められる対策

対策は難しくありません。フローを1つ追加するだけです。

毎月の振込が完了したら、「振込明細の金額」と「設定された役員報酬額」が1円単位で一致しているかを確認する。これをチェックリストに入れて毎月の処理の締めにするだけで、リスクをほぼゼロにできます。

あわせて整理しておきたいのが、振込手数料の処理方法です。手数料は役員報酬とは切り離して処理する形に変えるだけで、ズレのリスクを根本から排除できます。

もう一点、「業績が上がったから役員報酬を増やしたい」という場合も注意が必要です。役員報酬の変更は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。期中に増額すると、増額分が損金不算入になります。変更を検討しているなら、決算直後の早い段階で動くことが肝心です。


まだ振込後の照合チェックを経理フローに組み込んでいないなら、今月から始めてみてください。たった数分の確認作業が、年間数百万円の節税を守る盾になります。仕組みとして定着させておくと、担当者が変わっても安心です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。