先日、取引先の社長からこんな連絡がありました。「今月から役員報酬を少し下げようと思うんだけど、特に問題ないよね?」

この一言に、私は思わず「少し待ってください」と伝えました。金額をどう変えるかより、いつ変えるかのほうがずっと重要だからです。

タイミングを間違えると、「節税しようとしたのに税金が増えた」という、なんとも皮肉な結果になることがあります。

役員報酬は、好きな月に変えられない

法人税法のルールでは、役員報酬を毎月同額で支払う「定期同額給与」だけが、法人の経費(損金)として認められます。

そしてこの定期同額給与を変更できるのは、原則として事業年度の開始から3か月以内に限られています。この期間内に株主総会などで決議すれば、変更後の金額が正式に損金として認められます。

問題は、この期限を1日でも過ぎたときです。

4か月目に変えると、何が起きるか

具体的なケースで考えてみましょう。

月50万円の役員報酬を受け取っていた社長が、資金繰りの都合で「来月から45万円に下げよう」と決断しました。しかし、その決定を実行したのが、事業年度の開始から4か月目のことでした。

このとき、差額の月5万円は「損金不算入」として扱われます。つまり経費として認められず、法人税の計算対象に含まれてしまうわけです。年間で差額が50万円に積み上がると、法人税の実効税率にもよりますが、約17万円の税負担増になります。

「節税のために役員報酬を下げた」はずが、むしろ税金が増える。これが変更タイミングのミスの怖さです。

5年続けると、85万円超の損失になる

さらに問題なのが、「毎年同じタイミングで変更している」という会社です。

「うちは毎年4月(事業年度開始後4か月目)に役員報酬を決め直している」という慣習が根づいてしまうと、年17万円の余分な税負担が5年で85万円を超えます。

しかも、税理士に申告を丸投げしていると、なかなか気づけない損失でもあります。「毎年きちんと申告しているから大丈夫」と思っていても、変更の決議タイミングが確認されていなければ、知らないうちに余分な税金を払い続けている可能性があります。

なぜ「3か月以内」というルールがあるのか

少し背景を補足しておくと、このルールには理由があります。

役員報酬は、意図的に操作することで法人税を調整できてしまいます。業績が良かった年の後半に役員報酬を増やして利益を圧縮し、業績の悪い年には下げて資金を温存する、という使い方ができてしまうわけです。

それを防ぐために、「変更できるのは事業年度の最初の3か月だけ」というルールが設けられています。年度が始まってある程度業績の見通しが立った段階での変更を、制度として封じているのです。

実務でありがちな落とし穴

「3か月以内に変えればいい」とわかっていても、実務では細かい落とし穴があります。

まず、変更の決議をした証拠として株主総会(または取締役会)の議事録を必ず作成・保存しておく必要があります。「口頭で決めた」では通りません。

そして決議した日付と、実際の支払い開始のタイミングを一致させることも重要です。「決議は3か月以内だったけど、支払いの変更が1か月ずれた」というケースも問題になる可能性があります。

また、役員報酬を増額する方向の変更は損金不算入のリスクが小さくなりますが、社会保険料の標準報酬月額が上がるという別の問題が生じます。変更の方向性によって検討すべき視点が変わるので、単純に「金額だけ変えればいい」という話ではありません。

今期の変更タイミング、まだ間に合いますか?

もし今、役員報酬の見直しを考えているなら、まず「今の事業年度が始まって何か月目か」を確認してください。

3か月以内であれば、今から正式な手続きを踏んで変更できます。すでに4か月目以降に入っているなら、次の事業年度の開始後3か月以内を狙うのが原則です。

「事業年度が始まった翌月に、税理士と役員報酬を見直すミーティングを入れる」という習慣をカレンダーに組み込んでおくだけで、毎年の無駄な税負担を防ぐことができます。たった1時間の打ち合わせが、年間17万円の節税につながると思えば、優先度は高いはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。