先日、IT系の会社を経営する社長と話していたとき、こんな一言が出ました。「毎月20万の家賃、しんどいんですよね。会社の経費にできたらいいのに」。
実はできます。しかも、合法的に。「社宅制度」という仕組みを使えば、月20万円の家賃のうち、社長の自己負担を2万円前後にまで圧縮できるケースがあります。
残りの18万円は会社の経費になる——。この話を知らずに、何年も給与から家賃を全額払い続けている社長が、まだたくさんいるのが現実です。
会社が借りて、社長に貸す
社宅制度とは、会社が賃貸物件を契約して、それを社長(役員)に「貸し出す」という仕組みです。
会社が「賃借人」として契約し、社長に転貸する形をとります。このとき、社長が会社に支払う家賃は「賃貸料相当額」というルールに基づいて計算されます。
この賃貸料相当額が市場の家賃よりはるかに低くなることが多い、というのが社宅制度の核心です。
なぜ市場家賃より低くなるのか
国税庁が定める「賃貸料相当額」の計算式は、市場の家賃相場ではなく、固定資産税の評価額(課税標準額)をベースにしています。
固定資産税の評価額は、一般的に市場価格の6〜7割程度と言われています。さらに計算式には係数がかかるため、最終的に算出される賃貸料相当額は、市場家賃の1〜2割程度になることも珍しくありません。
「え、そんなに低くなるの?」と思われるかもしれませんが、これは国税庁の公式な計算に従った結果です。うしろめたさを感じる必要はまったくありません。
具体的な数字で見てみると
月20万円の家賃の物件を、社長個人が契約して住んでいる場合を考えてみましょう。
毎月20万円、年間で240万円が社長の手取りから消えています。しかもこの家賃、所得税・住民税を引いた後の「手取り」から払っているわけですから、税引き前の稼ぎでいえば400万円以上を家賃に使っている計算になります。
これを社宅制度に切り替えるとどうなるか。会社が同じ物件を契約し、社宅として社長に貸し出します。社長が会社に支払う賃貸料相当額が、たとえば月2万円と計算されたとします。すると——
- 社長の自己負担:月2万円(年24万円)
- 会社が負担する経費:月18万円(年216万円)
差額の18万円は「給与」ではなく福利厚生として扱われるため、社長の所得税が増えることもありません。
給与に上乗せするのとは全然ちがう
ここが社宅制度の最大のポイントです。
もし会社が「家賃補助として月18万円を給与に上乗せ」した場合、社長の給与が年216万円増え、所得税・住民税・社会保険料がその分増えます。手取りが増えるどころか、かなりの部分を税金に持っていかれます。
でも、社宅制度を正しく使えば、同じ経済的メリットを受けながら、社長の課税所得は変わらない。これが節税として機能する理由です。お金の流れを変えるだけで、手元に残るお金が増える——それが社宅制度の本質です。
一つだけ、絶対に守るべきルール
社宅制度を使う際に、どうしても外せない条件があります。
賃貸契約は必ず会社名義にすること。
社長個人名義のまま契約しておいて、「会社の経費として処理した」というケースを時々見かけますが、これは税務調査で否認されます。契約書の「賃借人」欄に会社名が書いてあることが大前提です。
すでに個人名義で契約している物件を社宅に切り替えたい場合は、更新のタイミングや次の引越しのタイミングで、会社名義に変更するのがベストです。
賃貸料相当額は物件ごとに計算が必要
もう一つ押さえておきたいのが、賃貸料相当額の計算は物件ごとに異なるという点です。
計算には固定資産税の評価額(課税標準額)が必要で、物件の所在地・築年数・床面積などによって結果が変わります。「だいたいこのくらいになるはず」という感覚的な見込みではなく、税理士に実際に試算してもらうのが確実です。
また、賃貸料相当額より低い金額しか社長から受け取っていない場合、その差額は給与所得として課税されます。計算を間違えると、節税どころか課税のリスクになりかねません。
今の賃貸物件、見直してみる価値があります
もし今、個人として賃貸物件に住んでいるなら、社宅制度を検討してみてください。特に家賃が15万円以上の物件に住んでいる社長は、年間で数十万〜百万円単位の節税効果が出るケースがあります。
今期の決算が近い方は、来期の準備として会社名義への切り替えを検討しておくのがおすすめです。「知らなかった」だけで毎月18万円を損し続けるには、あまりにもったいない話です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。