先日、法人で賃貸マンションを持っているある社長からこんな相談を受けました。「家賃収入が年間800万円ほど入ってきているので、そのまま役員報酬に上乗せして受け取ろうと思っているんですが、問題ないですよね?」
一見、当然の判断に聞こえます。でも実は、この「とりあえず役員報酬に乗せる」という選択が、年間100〜150万円の税務ロスを生んでいるケースが少なくないんです。
役員報酬に足すと、税率がガラッと変わる
法人が得た不動産収益を役員報酬として支払うと、課税の構造が大きく変わります。
法人の手元から出た分は損金になり法人税はかかりません。でもその代わり、あなた個人の給与所得に積み上がります。すでに役員報酬で一定の収入がある社長なら、追加分には所得税と住民税で合計33〜43%程度の税率がかかることになります。年収が高い方ほど、この上乗せ分への税率は重くなります。
一方で、法人の課税所得800万円以下に対する実効税率は約23%。この差が、じわじわと手残りを削っていきます。
年1,000万円で計算すると、その差は歴然
具体的に数字で見てみましょう。仮に不動産収益が年1,000万円あるとして、役員報酬に上乗せした場合と、法人内に留めた場合を比べます。
役員報酬に上乗せした場合、所得税・住民税の実効税率が38%前後になるとすると、税負担は約380万円。法人内に留めた場合は実効税率約23%で税負担は約230万円。その差は150万円です。
もちろん、個人の所得水準や法人の利益規模によって数字は前後します。でもこの「構造的な差」は、どの法人オーナーにも共通して存在します。
法人内に留めたお金には、2つの有力な出口がある
「じゃあ、ずっと法人に貯め込めばいいのか」と思うかもしれません。でも設計の肝は「貯めっぱなし」ではなく、「有利なタイミングと方法で個人に移す」ことです。
ひとつ目の出口は退職金です。役員退職金には「退職所得控除」という強力な非課税枠があります。勤続年数20年超なら、1年につき70万円の控除が受けられます。さらに控除後の金額に1/2をかけた額が課税所得になるため、現役時代に毎年重税を払いながら受け取るより、退職時にまとめて受け取ったほうが圧倒的に税効率がいいんです。
ふたつ目は法人内での再投資や積み立てです。法人名義で経費性のある投資(設備・人材・広告)や、解約返戻金が積み上がる保険商品を活用することで、節税しながら資産を形成できます。個人でただ手元に置いておくより、選択肢がはるかに広がります。
「役員報酬は高いほどいい」は思い込みかもしれない
「手元現金をできるだけ多く持ちたいから、報酬を最大化したい」という社長はよくいらっしゃいます。気持ちはよくわかります。でも、手元現金を増やすことと、資産を最大化することは、必ずしも同じではありません。
法人内に税率23%で留めた資産は、将来もっと有利な形で取り出せる可能性があります。退職金、相続、事業承継——そのイベントを見越した設計ができれば、10年・20年後のトータルの手残りは大きく変わります。大切なのは「今期いくら受け取るか」ではなく、「長いスパンで税引き後の資産をどう最大化するか」という視点です。
一点だけ気をつけてほしいこと
ただし、法人内に留めっぱなしにするリスクもあります。内部留保が膨らみすぎると、自社株の評価が上がり、事業承継・相続の場面で想定外の課税が発生することがあります。退職金支払いや不動産購入、生命保険の活用など、株価を下げる対策も並行して考えておく必要があります。
また、退職金の額は「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」で計算されます。将来の退職金を大きくしたいなら、今の役員報酬の水準も一定以上に保っておく必要があるんです。「老後にまとめて設計しよう」と先送りしてしまうと、その選択肢自体が狭まってしまいます。
不動産収益が出始めたら、「とりあえず役員報酬に乗せる」前に一度立ち止まって、税理士と一緒に「いつ・どんな形で個人に移すか」を設計してみてください。その一手間が、10年後に数百万円単位の差になることがあります。まだそうした設計を税理士と話し合っていないなら、次の決算前にぜひ相談の場を設けてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。