先日、ある製造業の社長からこんな連絡がありました。「今期は決算が思ったより良かったので、自分に賞与を出そうと思っているんですが、税金ってどのくらいかかりますか?」

一見シンプルな質問のように見えます。でも、この質問の裏に潜む「落とし穴」を知らずに動いてしまうと、何百万円もの税金を余分に払うことになりかねません。今日はそのリアルな数字をお伝えします。

役員賞与は「事前届出」がすべての分かれ道

まず大前提として覚えておいてほしいことがあります。役員へのボーナスは、原則として法人の損金(経費)になりません

「えっ、うちの会社のお金なのに経費にならないの?」と驚く社長も多いのですが、これが法人税法のルールです。ただし、1つだけ例外があります。それが「事前確定届出給与」という制度です。

税務署に対して「何月何日に○○円の賞与を支払います」と事前に届け出た場合に限り、その金額を損金に算入できます。逆に言えば、この届出なしに役員賞与を払ってしまうと、会社でも個人でも税金が取られる「二重課税」の状態になるわけです。

実際に計算してみると、衝撃の金額に

具体的な数字で確認しましょう。役員賞与として1,500万円を出した場合を想定します。

事前届出なしの場合、まず会社側で法人税が発生します。損金にならない1,500万円分に対して法人税率(約33%)がかかると、法人税が約500万円

さらに、賞与を受け取った社長個人にも所得税と住民税が課税されます。年収がすでに高い社長の場合、限界税率は最大55%に達することもあります。1,500万円の賞与に対して、個人の税負担が約825万円になるケースもあります。

合計すると、約1,325万円が税金として消える計算です。賞与として出した1,500万円のうち、手元に残るのは175万円。ほとんど国に持っていかれてしまいます。

同じお金を「毎月の報酬」として払っていたら?

同じ1,500万円を毎月の役員報酬として分割して支払っていたら、どうなるでしょうか。

役員報酬は、期首から変更せず毎月一定額を支払う「定期同額給与」であれば、損金として算入できます。つまり会社側の法人税はゼロ。個人税は賞与の場合と同じく約825万円かかりますが、合計の税負担は約825万円で済むわけです。

賞与で出した場合の約1,325万円と比べると、差額は約500万円。税金の払い方を少し変えるだけで、500万円が手元に残るか消えるかが決まる。これが「賞与で損する社長の落とし穴」の正体です。

役員報酬の変更には「タイミング」がある

「じゃあ、すぐに役員報酬を上げよう!」と思った方、少し待ってください。役員報酬を変更できるのは、原則として**期首(事業年度開始から3ヶ月以内)**に限られます。

期の途中で報酬を増やしてしまうと、増加分が損金に算入されなくなり、同じ二重課税の問題が発生します。このタイミングを間違えると、せっかくの節税設計が台無しになります。

決算が近づいてから慌てて動くのではなく、新年度のスタート時点から報酬設計を考えておくことが何より大切です。

今期の決算前にやるべきこと

今期の決算がまだ確定していない段階であれば、すぐに顧問税理士に連絡して状況を整理することをおすすめします。事前確定届出給与の制度を活用できる余地があるかもしれません。

来期に向けては、決算後すぐに翌年の報酬設計を見直す習慣をつけてください。「決算が良かったから賞与を出そう」という判断が、最もコストの高い選択になり得ることを覚えておいていただければ幸いです。まだ報酬設計を税理士と一度も話し合ったことがないなら、今期中に一度きちんと相談の場を設けておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。