先日、ある社長からこんな相談を受けました。「先生、去年法人で1.5億円の不動産を買ったんですが、決算を見たら節税になっていないんです。どういうことですか?」
話を聞いてみると、不動産の購入自体は完璧でした。RC造の建物部分が1.2億円、耐用年数47年で年間約250万円の減価償却。スキームとしては何もおかしくない。でも、そこに大きな落とし穴がありました。
「利益が出たから報酬を上げよう」が裏目に出た
法人で不動産を使う節税の仕組みは、シンプルです。減価償却費という「帳簿上のコスト」が法人の利益を圧縮し、法人税を減らす。それだけです。
ところが、この仕組みが機能するためには法人にしっかりと課税所得が残っていることが前提です。法人の利益がゼロ、あるいは赤字なら、どれだけ減価償却費を計上しても節税効果はゼロになります。減価償却は「利益を削る武器」であって、赤字をさらに膨らませる道具ではないからです。
この社長の場合、業績が好調で法人の利益は年間2,000万円ほどありました。そこで「今期は利益が出ているから」と役員報酬を少し引き上げた結果、法人の課税所得がちょうどゼロ近辺になっていたのです。
数字で見る「消えた500万円」
法人実効税率を約34%とすると、年間1,500万円の減価償却費があれば、理論上は約510万円の節税が見込めます。
でも、法人の課税所得が0円なら、この510万円は丸ごと消えます。減価償却費を計上しても「そもそも利益がなかったじゃないか」で終わりです。不動産を買うために動かした1.5億円が、節税という意味では何の仕事もしなかったことになる。
さらに困るのが、役員報酬は期首に設定したら原則として1年間変えられないという点です。定時株主総会で決めた報酬は、基本的に翌期首まで動かせません。途中で変更すると、その変更分が損金に算入できなくなるペナルティがあります。
つまり、設定を誤ったまま1年間引きずることになる。この社長のケースでは、結果として約500万円の節税機会が丸ごと失われていました。
正しい順番は「逆算」する
では、どうすれば良いか。答えは、設計の順番を逆にすることです。
多くの社長が「利益が出たら報酬を上げよう」と考えますが、法人で不動産節税を組み込む場合は違います。役員報酬を先に決めるのではなく、減価償却を先に計算してから役員報酬を逆算するのが正解です。
たとえば、法人利益が年2,000万円で、不動産の年間減価償却が500万円あるとします。このとき役員報酬を1,600万円以下に抑えれば、法人に400万円以上の課税所得が残り、減価償却の節税効果がしっかり生きます。役員報酬を2,000万円にしてしまうと、減価償却の500万円が吹き飛んで法人は赤字。節税どころか、繰越欠損金の処理まで必要になります。
「決算前に聞いておけばよかった」では手遅れ
このミスの怖いところは、気づいたときにはもう取り返しがつかない点です。不動産を買うタイミングと、役員報酬を決めるタイミング、この二つが噛み合っていないと節税効果はゼロになります。
法人で不動産投資を検討しているなら、購入を決める前に必ず税理士と「役員報酬の設計」を一緒に見直してください。今期の利益見込みと減価償却のバランスを確認するだけで、数百万円単位の差が生まれます。
「不動産を買えば節税になる」は半分しか正解ではありません。役員報酬と正しく組み合わせて初めて、節税が完成するのです。役員報酬の改定タイミングが近い方は、今すぐ試算しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。