先日、年商2億円の建設会社を経営するA社長からこんな相談を受けました。「収益不動産を持ってるんですが、税金が思ったより全然下がらなくて」。
詳しく聞いてみると、不動産は個人名義で保有していて、年間の家賃収入は約1,200万円。経費はある程度計上しているけれど、それ以上のことは特に何もしていない、とのことでした。
実はこのケース、大きな節税機会を見落としていました。不動産節税を単独で考えるのではなく、役員報酬と「連携して設計する」という発想がなかったからです。
個人保有だと、税率の壁にぶつかる
個人が不動産を持つと、家賃収入は「不動産所得」として扱われます。問題は、この所得が既存の役員報酬と合算されてしまうことです。
例えば役員報酬が年1,500万円の社長が、家賃収入1,200万円を個人で受け取っているとします。合計2,700万円の所得に対して累進課税が適用されるため、所得税と住民税を合わせた実効税率は33〜40%を超えることもあります。
不動産の経費を引いても、残った利益には高い税率がかかる。これが「個人保有の落とし穴」です。
法人保有に切り替えると何が変わるか
同じ1,200万円の家賃収入でも、不動産を法人で保有すれば話が変わります。
法人の場合、課税所得が800万円以下であれば中小企業向けの軽減税率が適用され、実効税率は約22〜25%に抑えられます。個人の最高税率55%と比べると、その差は歴然です。
さらに重要なのが、役員報酬との組み合わせです。法人の利益を社長への役員報酬として分散すると、受け取った役員報酬には「給与所得控除」が使えます。
給与所得控除は、給与収入に応じて一定額を差し引ける制度です。年収1,000万円なら195万円が自動的に控除されます。個人の不動産所得にはこの控除が一切ありません。ここが法人保有の大きなアドバンテージです。
具体的に「3割変わる」とはどういうことか
個人保有で実効税率33〜40%だった社長が、法人保有+役員報酬への分散設計に切り替えたとします。法人の軽減税率約22%と給与所得控除の効果が重なると、全体の税負担が3割近く軽減されるケースが実際にあります。
年間の家賃収入1,200万円に対して税負担が3割変わるとなれば、それだけで数百万円規模の差が生まれます。10年単位で考えると、設計一つで数千万円の違いになることも珍しくありません。
設計を誤ると逆効果になることもある
ただし、この組み合わせには注意が必要です。
法人への不動産移転は「個人から法人への売却」という形をとります。このとき、個人側に譲渡所得税が発生する場合があります。また、登記費用や不動産取得税といった初期コストも無視できません。「とにかく法人に移せばいい」という発想だと、移転コストが節税効果を上回ることもあります。
役員報酬の設定にも慎重さが必要です。役員報酬は原則として期初に決めると1年間変更できません。利益の見込みが外れたとき、役員報酬が多すぎて会社にキャッシュが残らない、あるいは少なすぎて法人税が増えるという事態が起きやすい部分です。
家族への役員報酬で所得を分散する手法も有効ですが、実態が伴わないと税務調査で否認されるリスクがあります。貢献の実態をきちんと整えてからでないと、かえって危険です。
縦割り思考が、大きな機会を逃す
「不動産は不動産で最適化、役員報酬は役員報酬で考える」という縦割り思考が、最大の落とし穴です。個人で不動産を保有しながら法人から役員報酬をもらっているなら、この2つを一体で設計する視点が不可欠です。
税理士の中でも、不動産と役員報酬の連携設計に強い先生とそうでない先生で、提案の質に大きな差があります。収益不動産をすでに保有している、あるいは取得を検討しているなら、不動産に精通した税理士に一度相談してみることをおすすめします。
今期の決算が近づく前に、現在の設計を見直しておく価値は十分あります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。