先日、不動産法人を経営するある社長から、こんな連絡が届きました。「節税のために建物比率を少し高めに設定していたんですが、税務調査で全額否認されそうで……」。手元には1000万円を超える追徴税額の通知書があり、声に焦りがにじんでいました。
不動産を活用した節税は、法人の税負担を合法的に下げる有効な手段です。ただし、やり方を間違えると税務署のターゲットになりやすく、一度追徴が決まると重加算税や延滞税が上乗せされてあっという間に1000万円を超えることがあります。
今回は、実際によく起きる3つの落とし穴をご紹介します。心当たりがある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
建物比率を「都合よく」設定すると全額否認される
不動産を取得するとき、土地と建物の按分をどう設定するかで、減価償却費の額が大きく変わります。建物は減価償却できますが、土地はできません。だから建物比率を高めにすれば節税になる——これ自体は事実です。
問題は、この按分を実態と乖離した形で操作したときです。たとえば市場相場では土地:建物=7:3が妥当な物件に対して、内部書類で4:6に書き換えるようなことをすると、税務署はすぐに察知します。
税務署は固定資産評価額や路線価、近隣の取引事例を照合して恣意的な操作がないかをチェックしています。問題ありと判断されれば、減価償却費の全額否認という最悪の結果も十分あり得ます。さらに「意図的な操作」とみなされれば重加算税35%が上乗せされ、元の税額が500万円でも、延滞税と合わせると1000万円超になることは珍しくありません。
修繕費として処理したら「資本的支出」と否認された
「外壁塗装を修繕費で処理したら、全額否認されました」という話も、不動産法人の税務調査では頻繁に耳にします。
修繕費は全額を当期の経費にできますが、建物の価値を高める「資本的支出」は減価償却していく必要があります。この区分が曖昧だと、税務署は「これは価値向上のための支出だ」と主張して修繕費扱いを否認してきます。
目安として、工事費用が300万円以下かつ前期末取得価額の10%以下であれば修繕費として処理できるケースが多いです。ただし、外壁の全面張り替えや、劣化していない設備の全交換など「改良」と取られかねない工事は要注意です。工事前に税理士と相談し、劣化状況の写真や工事前後の記録を残しておくと、税務調査での説明がずっと楽になります。
関連会社への低額譲渡が「みなし課税」に化ける
3つ目は、グループ会社間の不動産取引でよく起きるケースです。節税目的で親族が経営する関連会社に不動産を安く譲渡すると、税務署は「適正な時価との差額」に課税してくることがあります。これがみなし譲渡課税です。
たとえば時価2億円の不動産を8000万円で関連会社に売った場合、差額の1億2000万円が「贈与」とみなされることがあります。「自社グループ内で動かしているだけ」と思っていても、税務署は第三者間で取引したとしたらいくらになるかという「時価」を基準にします。
グループ内の不動産取引では、必ず不動産鑑定士の評価書を取得しておくことをおすすめします。数十万円のコストで、数百万〜数千万円の追徴リスクを回避できるなら、費用対効果は十分です。
不動産法人は税務調査の対象に入りやすい
ここで知っておいていただきたいのは、所得が高い不動産法人は一般法人と比べて明らかに税務調査の対象になりやすいという現実です。
売上規模が大きく、減価償却・修繕費・グループ間取引など「操作しやすい項目」が多い不動産業は、税務署からすると調査効率が高い業種です。「今まで調査が入ったことがないから大丈夫」という感覚は、少し危険かもしれません。
税務署の調査先選定は完全なランダムではなく、リスクスコアに基づいています。不動産法人、特に所得が大きいほどそのスコアは高くなりがちです。
追徴を防ぐのは「事前の根拠づくり」だけ
今回ご紹介した3つのパターン——建物比率の操作、修繕費の誤処理、関連会社への低額譲渡——に共通するのは、「節税のつもりが、根拠を説明できない状態になっていた」という点です。
悪意がなくても、税務調査で指摘されれば重加算税が加算されます。重要なのは、処理の判断根拠を書面で残し、いつでも説明できる状態を作っておくことです。
少しでも心当たりがある項目があれば、今期の申告が終わる前に不動産税務に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。税務調査が来てからではなく、来る前に動くことが、最大のリスクヘッジです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。