先日、都内で収益不動産を数棟持つ製造業の社長から、突然連絡がきました。「税務調査が入って、追徴課税が5,000万円を超えそうだ」というのです。その社長は数年前から「相続対策には不動産を買っておけ」というアドバイスに従い、タワーマンションを購入していました。節税のつもりが、逆に最大のリスクになってしまっていたのです。

最高裁が「常識」をひっくり返した

長年、相続税対策として「現金を不動産に変えれば路線価評価になるから相続税が下がる」という手法が広く使われてきました。現金や預金は時価のまま課税されますが、不動産に変換すると評価額が大幅に下がるのが一般的だったからです。

ところが2022年4月、最高裁が「節税目的が明らかな場合は、路線価ではなく時価で評価できる」という判決を下しました。税務署が「これは節税目的で買った不動産だ」と判断すれば、路線価評価を使わずに独自の鑑定評価に差し替えることができる——そう認められたのです。

この判決以降、不動産節税スキームは税務調査の最重点ターゲットになっています。「以前は問題なかった」という感覚のまま動いていると、大変なことになります。

今の税務署が特に厳しく見る「3つのポイント」

現在、税務調査で狙われやすいのは主に3つのリスクです。

リスク1:路線価評価の否認

節税目的が明らかだと判断されれば、路線価ではなく時価で評価されます。購入時の時価が3億円だったマンションを路線価ベース1億円で申告していたとすれば、差額2億円に相続税が課される計算です。「路線価で評価すれば大丈夫」という前提は、もはや通用しません。

リスク2:法人間の賃料設定ミスによる給与課税

個人で購入した不動産を自分の会社に貸して賃料を受け取るケースがあります。このとき、賃料が市場の適正価格から大きく外れていると、差額が役員への「給与」と認定されることがあります。会社の損金には算入できますが、社長個人に給与所得として課税される。節税のつもりが、むしろ余分な税負担を生む逆転現象が起きます。

リスク3:小規模宅地特例の適用要件漏れ

相続税を最大80%減額できる「小規模宅地特例」は、要件が細かく、見落としが起きやすい制度です。自宅として実際に使っていたか、相続後の使い方はどうするか——こうした要件をひとつでも満たさないと、特例が丸ごと使えなくなります。「要件は満たしているはず」という思い込みが、後で大きなミスになることがあります。

重加算税35%が加わると、追徴額は跳ね上がる

これら3つのリスクが重なり、税務署が「意図的に税額を少なく申告した」と判断すると、重加算税が課されます。その税率は35%です。

通常の過少申告加算税は10〜15%なので、桁が違います。仮に追徴税額が2,000万円だったとしたら、重加算税だけで700万円。そこに延滞税(年利約8〜9%)まで積み重なると、最終的な支払い額が当初見込みの2倍近くに膨らむことも珍しくありません。

冒頭の社長の「5,000万円」という数字も、税額の不足分だけでなく、加算税と延滞税が重なった結果です。

特に危ないのは「相続直前の購入」

税務署が最も厳しく目を光らせるのが、相続発生の直前に購入された不動産です。「節税が目的であることが明らか」と判断されやすく、2022年の最高裁判決が直撃しやすい状況です。

「相続対策のために」「決算前に損を出したい」という理由で不動産を急いで購入しようとしているなら、一度立ち止まることを強くおすすめします。購入後に税務リスクが発覚しても、もう取り消せないのが不動産です。

買う前の「税務リスク診断」が最大の防衛策

正しく設計された不動産節税は、今でも有効な手法です。ただし「買えば節税になる」という時代は完全に終わりました。

購入前に、路線価否認のリスクがないか・賃料設定は市場水準に合っているか・小規模宅地特例の要件を将来にわたって満たせるか、この3点を税理士と一緒に確認するだけで、リスクは大幅に変わります。

「節税になると聞いて買った」では、税務署には通りません。不動産節税を検討している社長は、まず信頼できる税理士への相談から始めてください。動く前に確認する——それが、結果として最もコストの低い節税対策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。