先日、会社を経営して12年という製造業の社長から、こんな連絡をいただきました。

「去年から役員報酬を2,000万円に上げたんですが、不動産の賃貸収入と合算されて税金がえらいことになって……」

税務申告書を見せてもらうと、所得税・住民税の実効税率が50%を超えていました。がんばって稼いだお金の半分以上が税金として消えていく計算です。

これ、珍しいケースではありません。役員報酬と不動産、この組み合わせには「知らないと数百万〜1,000万円単位で損する」落とし穴が3つあります。

落とし穴①:税率の断層を踏み抜く

個人で不動産を持っている状態で、役員報酬を大幅に上げると危険です。

日本の所得税は累進課税で、課税所得が4,000万円を超えると最高税率45%に到達します。住民税10%を加えると実効税率は55%。役員報酬2,000万円に不動産所得が上乗せされると、あっという間にこの水域に入ってしまいます。

一方、不動産を法人名義で持った場合、法人税の実効税率は最大でも約34%です。同じ収益を同じだけ上げても、個人で持つか法人で持つかで税率が20ポイント以上変わる。収益が大きくなるほど、この差は年500万円、1,000万円と膨らんでいきます。

「今さら法人に移すのが面倒で……」という声もよく聞きますが、毎年1,000万円の差が出るなら、移転コストは数年で回収できる計算です。

落とし穴②:節税のはずが増税になる逆転現象

不動産投資の節税効果といえば、多くの方が「減価償却費が使える」と思っているはずです。確かに築古物件などは減価償却で大きな節税が狙えますが、役員報酬が高い状態では話が変わります。

個人の総所得が高いほど、不動産所得はその高い税率の枠に積み上がります。減価償却費を計上して不動産所得を圧縮しても、圧縮しきれない利益分には最高税率が適用される。しかも減価償却が終わった後は、帳簿価額が低くなった状態で売却益が出やすくなり、譲渡所得税の負担が増えることもあります。

「節税目的で買ったのに、トータルで見たら損だった」という事態は、買う前の税務設計なしには防げません。個人か法人か、いつ買うか、誰の名義で持つか——これを事前に整理しておくことが、長期的な節税の分かれ目になります。

落とし穴③:タイミングを1年間ミスする

役員報酬には、税法上の制限があります。原則として、期首から3か月以内にしか変更できません。つまり、年に1回しか報酬設定のチャンスがないのです。

不動産を取得するタイミングとこの報酬設定がズレてしまうと、最適な節税設計を1年丸ごと待たなければなりません。たとえば、期首から半年経った秋に大型物件を購入した場合、その期中は役員報酬を調整できないため、想定外の税負担を抱えたまま決算を迎えることになります。

「知らなかった」では済まされない損失です。不動産購入を検討し始めた時点で、直近の期首のタイミングと照らし合わせ、報酬設定を先に整えておく——そういう逆算の発想が必要です。

買う前に設計を終わらせるのが鉄則

役員報酬×不動産の節税設計で大切なのは、不動産を買ってから考えるのではなく、買う前に設計を完成させることです。

法人か個人か、報酬水準はどう調整するか、購入時期はいつが最適か——この3つを事前に整えておくだけで、同じ物件を購入しても税負担が数百万円変わることがあります。

「まず物件を押さえてから、税理士に相談しよう」という順番が、最もリスクの高い買い方です。今期中に不動産購入を検討している社長は、ぜひ物件を決める前の段階で、一度税理士に声をかけてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。