先日、都内で製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。「役員報酬を上げても、社会保険料と所得税でごっそり持っていかれて、手元に残らないんですよね」。
この悩みは、多くの社長が共感されるはずです。役員報酬を増やせば個人課税が重くなる。法人に留めれば法人税がかかる。どちらを取っても「節税の天井」を感じる——そんな閉塞感です。
でも、そこに「不動産」という打ち手を組み合わせると、話が変わってきます。
役員報酬だけでは節税に限界がある
月60万円の役員報酬だと、年間720万円。ここから所得税・住民税だけで100万円以上、社会保険料も含めると実質的な手取り率は60〜65%程度になります。せっかく稼いでも、3〜4割は税と保険料で消えていく計算です。
法人で利益を内部留保しても、法人税実効税率は約34%。どちらに転んでも課税される構造は変わりません。役員報酬の調整だけでできる節税には、確かに限界があります。
不動産を「二段階節税」のレバーにする
そこで有効なのが、法人で不動産を取得し、そこに二つの節税効果を重ねる手法です。
一段目:減価償却費で法人税を圧縮する
法人で不動産(特に建物部分)を取得すると、減価償却費を毎年損金算入できます。年間600万円の償却費が出るなら、法人税実効税率34%をかけた約200万円が節税になります。キャッシュは出ていかないのに帳簿上の利益が減る——これが減価償却の強みです。
二段目:役員社宅で個人課税も削る
その物件を「役員社宅」として使えば、個人の節税効果も生まれます。会社が家賃を負担し、役員は法令の計算式に基づいた低廉な賃料を会社に支払う形を取ります。差額分は給与としての課税対象にならないため、実質的に役員報酬を下げるのと同じ効果が得られます。
所得税・住民税が下がり、社会保険料の計算基準となる標準報酬月額も下げられる可能性がある。この二つが重なることで、節税効果が二重に乗ってくるわけです。
「年400万円」はどこから来る数字か
月60万円(年720万円)の役員報酬を受け取る社長を例に考えてみます。
法人不動産からの減価償却費が年600万円規模であれば、法人税節税として約200万円。役員社宅の活用で報酬課税の対象額が圧縮され、所得税・住民税・社会保険料の合計が年200万円前後の削減になるケースがあります。
合計すると年400万円規模の節税効果——という計算になります。もちろん、物件の規模や取得価格、建物・土地の比率、役員報酬の水準によって大きく変わります。「400万円」はあくまで試算の一例です。
実行する前に押さえておきたい注意点
この手法は効果が大きい分、注意点もあります。
役員社宅の賃料設定は、税法上の計算式に基づく必要があります。会社が家賃全額を負担し、役員が一切払わないケースは給与課税の対象になるため、適正な賃料設定が前提です。設定を誤ると、節税どころか追徴課税のリスクになります。
また、不動産は流動性が低く、購入・売却に手間とコストがかかります。節税効果だけを目的に購入すると、出口戦略で苦労することもある。事業の資金繰りや将来的な売却まで含めて、総合的に判断することが重要です。
さらに、2025年以降は法人の不動産取得に際して、金融機関の審査が厳格化している傾向があります。借入条件の確認は、物件を決める前の早い段階で動いておくのが賢明です。
「試算してもらう」を先延ばしにしない
役員報酬と不動産の組み合わせは、使える打ち手が多い分、設計の精度で結果が大きく変わります。物件の取得タイミング、減価償却の期間、社宅賃料の計算——どれも自社の数字に合わせてシミュレーションしてもらうのが一番です。
「うちの規模で本当に効くのか?」と思っている社長こそ、一度、担当税理士に数字を出してもらうことをおすすめします。試算だけなら費用もかかりませんし、動き始める前に全体像を掴んでおくと判断が早くなります。
年400万円の差は、10年で4000万円。早く動いた分だけ、手元に残るお金が変わってきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。