先日、食品卸業を経営するある社長から、こんな相談を受けました。

「月100万円の役員報酬をもらっているのに、手元に残るのは75万円ほど。毎月25万円、年間にすると300万円近くが消えている。これって何とかならないの?」

まったくそのとおりで、これが役員報酬の現実です。所得税・住民税・社会保険料のトリプルパンチで、実に3割近くが給与から消えていく構造になっています。「頑張って稼いでいるのに、なぜこんなに持っていかれるんだ」と感じる社長は少なくありません。

報酬を「下げる」のに手取りが増える、逆転の発想

結論からいうと、この社長は顧問税理士のアドバイスで役員報酬を月100万円から60万円に下げました。なのに、実質的な可処分所得は増えたのです。

「報酬を下げたら生活できないのでは?」と思うかもしれません。でも仕組みを理解すると、むしろ合理的な判断だとわかります。ポイントは、個人で受け取る前に法人の中でお金を有効活用することです。

法人で不動産を買うと、何が起きるのか

この社長が取り組んだのは、法人名義で中古の区分マンションを2室購入することでした。

中古物件の節税効果の核心は減価償却にあります。築年数が一定以上の木造や軽量鉄骨の物件は法定耐用年数が短く、短期間で大きな額を経費に落とせます。借入金利も当然、法人の経費です。

この2室の合計で、年間およそ180万円が法人の経費として計上できるようになりました。法人税率22%で計算すると、年間約40万円の節税効果が生まれた計算です。

役員社宅でさらに生活コストを圧縮する

もう一つの工夫が「役員社宅」の活用です。

法人が購入した物件を、役員が社宅として利用する仕組みです。自宅として法人から借りる形にすることで、家賃の大部分を法人が負担する構造になります。個人が家賃を払う場合は所得税が引かれた後のお金で払うことになりますが、法人経費として計上すれば税引き前のお金で住居費を賄えます。

月15〜20万円規模の家賃負担が圧縮されると、それだけで年間200万円近い差になることもあります。報酬の減少分を、こうした現物給付で補う設計です。

実際、手取りはどう変わったのか

この社長のケースを整理すると、役員報酬の削減によって個人の所得税と社会保険料が年間で大幅に軽減されました。法人側では減価償却費と借入金利の計上で法人税が年約40万円減り、さらに役員社宅で実質的な住居費負担も圧縮されました。

報酬は月40万円減りましたが、税負担と住居費の合計圧縮がそれを上回ったため、生活水準はほぼ変わらず、むしろ少し楽になったと話していました。

やってみる前に押さえておきたい3つの注意点

ただし、この手法にはいくつか前提があります。

一つ目は物件の選定です。減価償却メリットを最大限に活かすには、耐用年数の計算が重要で、築年数・構造・購入価格のバランスを慎重に見る必要があります。安易に新築物件を選んでも節税効果は薄くなります。

二つ目は資金繰りです。法人のキャッシュフローに余力があることが前提で、頭金や諸費用が手元資金を圧迫しないか確認が必要です。

三つ目はタイミングです。役員報酬の変更は期の途中では原則できません。期首から3ヶ月以内が変更のタイミングになるため、来期に向けて今から動き始めることが大切です。

来期の決算に向けて、今すぐ動く

月100万円の役員報酬をそのまま受け取り続けるより、法人の仕組みをうまく使ったほうが結果として手元に残るお金が増える。この逆転の発想こそが、法人節税の醍醐味です。

来期の役員報酬を変更したいなら、変更できるタイミングは決算から3ヶ月以内しかありません。「うちの会社でどれくらい効果があるか」を数字で確認するためにも、今期中に税理士へシミュレーションを依頼しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。