先日、年商3億円規模の不動産オーナー社長からこんな話を聞きました。「法人を設立して6年になるけど、役員報酬は最初に決めたまま一度も見直してない。妻にも少し払ってるけど、正直なんとなくで決めた金額なんだよね」と。

試算してみると、その「なんとなく」の設定は驚くほど非効率でした。現状を少し組み替えるだけで、年間200〜300万円の差が出ることがわかったんです。

税務署は「最適解」を教えてくれない

まず知っておいてほしいのは、税務署はあなたの申告書を見てもこう言ってはくれません。「もう少し家族に分散させると、税負担が下がりますよ」と。

当然の話ですが、税務署は税を正しく徴収するのが仕事であって、あなたの節税を手伝う機関ではないんです。最適な報酬設計は、自分から動いた人だけが手に入れられる「取りに行く節税」のひとつです。

それなのに多くの社長が、役員報酬を「生活費から逆算」「前期と同じ」「税理士任せだけど深く話したことはない」という状態で放置しています。この無関心が、毎年じわじわと手取りを削っているんです。

法人収益の「30%分散」という考え方

不動産管理法人の節税設計において、基本的な発想は「所得の分散」です。法人にお金を貯め込むより、役員報酬として家族に分けて出すことで、累進課税の壁を乗り越えやすくなります。

目安としてよく使われるのが、法人収益の約30%を配偶者や家族役員の報酬として設計するアプローチです。

年収1,000万円を超えるオーナー社長の実効税率は、所得税と住民税を合わせると40%前後になることがあります。一方で、配偶者の年収が200〜300万円程度の場合、実効税率は10〜20%台にとどまることが多い。この差を活かして家族全体で報酬を分散させると、同じ収益でも手元に残るお金が大きく変わってきます。年収1,000万超の社長なら、この差が年300万円規模になるケースも珍しくありません。

「名義だけの役員」は税務調査で危険

ただし、ここで絶対に外せない注意点があります。

「妻を役員にしているけど、実際には何もしていない」という実態のない設計は、税務調査で否認されるリスクが高いです。税務署は役員報酬の支払いが「実態ある業務への対価」かどうかを、かなり厳しく見ます。

名義だけの役員で節税していたとしても、後から追徴課税や加算税を受けると、得どころか大損になりかねません。長期的に見れば、リスクがリターンをはるかに上回る設計になってしまいます。

実態のある業務設計が前提です。たとえば物件管理の連絡対応、家賃入金の確認・記帳補助、書類整理や経費精算の管理など、「この人が担っている業務はこれです」と説明できる状態にしておくことが、節税設計の土台になります。

5年間放置すると、損失は雪だるまになる

冒頭の社長の話に戻ります。6年間「なんとなく」の設定だったということは、仮に年300万円の差があったとすれば、累計で1,800万円の機会損失です。

しかも、役員報酬には「定期同額給与」というルールがあり、決算期を過ぎると原則として変更できません。変更のチャンスは年に一度だけ。「来年考えよう」と先延ばしにするほど、損失が積み上がっていく構造になっています。

「今のままでいいですか?」の一言が大事

役員報酬の最適化は、難しい話ではありません。ただ、「感覚」ではなく「数字」で設計することが大事です。

法人の見込み収益、自分と家族の報酬バランス、社会保険料とのトレードオフ——これらを組み合わせて試算すると、答えはかなり具体的に出てきます。まずは「今の設定は最適ですか?」と税理士に一言聞いてみるだけでもいい。その質問一つが、年間数百万円の差を生む起点になるかもしれません。

次の決算期を前に、一度シミュレーションをしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。