先日、年商3億円の建設業の社長から、こんな相談を受けました。

「毎年それなりに税理士に頼んでいるんですが、なんか払いすぎている気がして……」

決算書を見せてもらうと、原因はすぐわかりました。役員報酬の金額は設立当初からほぼ変わっておらず、社長の自家用車も経費にできていない。いわば「節税の王道」を素通りしていた状態だったんです。

多くの社長が見落としている「掛け合わせ」の発想

役員報酬を増やすか、経費を増やすか——多くの社長は、この2つを「どちらか一方」の問題として考えています。でも実は、この2つを同時に最適化することが、節税の核心です。

片方だけでは限界があります。役員報酬を増やしすぎると個人の所得税・住民税が増えすぎて逆効果になるし、経費だけ積み上げても、そもそもの法人税率が高ければ節税効果は薄い。両方を連動させて動かすことで、初めて大きな差が出てきます。

ポイント①:法人と個人の「実効税率の差」が最大になる報酬額を狙う

法人税の実効税率(中小企業の場合、課税所得800万円以下なら約23〜25%)に対して、個人の所得税+住民税は所得が増えるほど高くなります。年収1,000万円を超えると合計で40%を超え、1,800万円を超えると50%に達することもあります。

つまり、役員報酬を設定するときのポイントは「法人と個人の税率が逆転するギリギリ手前で止める」こと。具体的には、給与所得控除も踏まえた上で個人の実効税率が法人税率を上回らない水準——多くのケースで年収800万〜1,200万円の範囲に「ベストゾーン」が存在します。

当然、会社の利益水準によってこの数字は変わります。利益が少ない年に報酬を高くしすぎても効果がないので、毎期の利益予測と連動して見直す習慣が大切です。

ポイント②:「個人払い」の費用を法人に移す

報酬水準を決めたら、次は「個人で払っているものを法人払いに組み替える」作業です。これが意外なほど見落とされています。

代表的なものをいくつか挙げると:

  • 社宅(役員社宅):家賃の大半を法人経費にしながら、社長個人の手取りは維持できる。家賃20万円の物件なら、月15〜16万円が法人経費になるケースも
  • 出張旅費規程:日当を規程で定めておけば非課税で支給でき、法人は全額損金。月2〜3回の出張がある社長なら年30〜50万円の効果になることも
  • 業務用備品・通信費:スマートフォン、PC、自宅の一部をオフィス利用しているなら按分で経費化できる

これらを「個人の生活費」と思ったまま放置しているケースが非常に多い。法人が支払う形に組み替えるだけで、課税所得が圧縮されます。

2つを同時に動かすと、何が起きるか

仮に、現状の役員報酬が年1,500万円で、経費の法人組み替えができていない社長がいたとします。

報酬を年1,000万円に下げて法人利益を500万円増やしつつ、社宅・旅費・備品で年間200万円を経費化したとしましょう。法人税は増えますが、個人の所得税・住民税の削減幅がそれを大きく上回る。試算によっては、この2ステップだけで年400〜500万円の税負担差が生まれることがあります。

もちろん、これは一例です。会社の利益規模、家族構成、社会保険の扱いなど、個別の事情によって最適解は変わります。「500万節税」はあくまで現実的な上限感を示したもので、すべての会社に当てはまる数字ではありません。

「毎年見直す」仕組みを作る

もう一つ、見落とされがちな視点があります。役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内にしか変更できません(定期同額給与の要件)。つまり、決算が近づいてから慌てて動こうとしても、もう手遅れです。

理想は、期初に年間の利益着地を予測し、そこから逆算して報酬額と経費戦略を同時に決める流れを毎期の「恒例行事」にすること。この習慣があるかどうかで、10年・20年の累積節税額は数千万円単位で変わってきます。

まだ役員報酬を設立時のままにしている、あるいは社宅や旅費規程を整備していないなら、次の決算期に向けて今から動き始めることをおすすめします。担当の税理士に「法人と個人の実効税率の比較シミュレーションをしてほしい」と一言伝えるだけで、話が大きく動くことがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。