先日、年商3億円ほどの製造業を経営する社長と話していたとき、こんな言葉が出ました。「役員報酬は会社を作ったときに税理士に言われた金額のまま、一度も変えていない」。

聞いてみると、月100万円、年1200万円。もう7年、そのまま。「税理士から特に何も言われないから」というのが理由でした。

これ、決して珍しい話ではありません。そして、思いのほか大きな機会損失が眠っていることも少なくないんです。

「とりあえず年1200万円」はなぜ生まれるのか

役員報酬を決める際、多くの社長は「月100万円(年1200万円)」に落ち着きます。税理士から「社会保険料も考慮するとこのあたりが一般的です」と言われ、そのまま据え置いている方が本当に多い。

ただ、これは「一般的な答え」であって、「あなたの会社に最適な答え」とは限りません。会社の利益規模、個人の所得税率、社会保険の負担感、家族への給与設定——これらが絡み合って初めて「その年の最適額」が見えてきます。

毎年の決算申告のついでに数分で確認できるものではないので、多くの税理士は深追いしない。これが「何年も変えていない」という状況を生み出しています。

法人税率と個人税率の「均衡点」を探る

少しだけ税率の話をさせてください。ここを理解すると、最適化の意味がわかります。

法人の利益が800万円を超えると、実効税率はおよそ34%まで上がります。一方、個人の所得税は累進課税で、年収1200万円前後の実効税率はざっくり33〜38%程度です。

つまり「法人に残しても、役員報酬として個人で受け取っても、税率はほぼ同じ」というゾーンが存在します。この均衡点を毎年探るのが、役員報酬最適化の核心です。

利益1億円規模の会社であれば、法人税と個人税・社会保険の合計負担を最小化する役員報酬の目安は、年1000〜1500万円前後になることが多いです。「目安」であって、会社の状況によって変わりますが、「とりあえず1200万円」と「精緻に計算した最適額」の間に、年間200〜300万円の差が生まれることは珍しくありません。

10年積み上げると、差は3000万円を超える

年200万円の節税効果が10年続けば、それだけで2000万円。年300万円なら3000万円です。

「3000万円の節税」と聞くと、何か特別な税務スキームを使うイメージがあるかもしれませんが、やることは役員報酬の額を毎年見直すだけ。設定を少し動かすだけで、これだけの差が積み上がります。

逆に言えば、これをやっていない会社は、気づかないうちに毎年200〜300万円を余分に国に渡し続けているとも言えます。

不動産を取得すると、最適額がさらにズレる

話をもう一歩進めると、法人で不動産を持っている場合は計算がさらに複雑になります。

建物の減価償却費は法人の課税利益を直接圧縮します。減価償却の大きい年は利益が抑えられるので、役員報酬を少し絞っても法人税の上昇は限定的です。一方、償却が落ち着いてきた年は利益が増えてくるので、報酬を増やして個人の退職金原資に振り向けるほうが有利になることもある。

こういった「今年の最適額」を毎年チューニングするのが本来あるべき姿ですが、ここまで主体的に提案してくれる税理士はまだ少ないのが現実です。

「最適化してますか?」と一言聞いてみてください

決算が終わるタイミング、あるいは期の途中でいいので、税理士にこう聞いてみてください。「今期の役員報酬、最適化できていますか?」と。

もし「問題ないですよ」の一言で終わるなら、もう少し踏み込んでみてください。「どういう計算でそう判断していますか?」——きちんと最適化している税理士なら、その場でシミュレーションの数字を見せてくれるはずです。

決算前に一度立ち止まる習慣が、10年後の手残りを大きく変えます。「何となくこの額」で放置しているなら、今期の決算前にぜひ一度見直しの相談をしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。