先日、年商3億円の建設会社を経営するKさんから、こんな相談を受けました。

「税理士から役員報酬を下げるよう言われているんですが、生活費のことを考えると踏み切れなくて。そもそも下げたら、何が変わるんでしょう?」

この質問、実は多くの社長が抱えている根本的な疑問です。役員報酬は単純に「高いほうがいい」「低くして会社に残したほうがいい」という話ではなく、設計次第で手取りが年間150万円以上変わることもあります。

高すぎる報酬が招く「見えない税金」

役員報酬を高く設定したとき、まず直撃するのが所得税と住民税です。

累進課税なので、所得が上がれば上がるほど税率も跳ね上がります。住民税の10%を合算すると最高税率は55%。報酬を1,000万円受け取っても、手元に残るのは半分にも満たないことになります。

さらに痛いのが社会保険料。健康保険と厚生年金を合わせると、標準報酬月額の約30%が飛んでいきます。報酬が高いほど保険料も増える一方、受け取れる年金額の上限は早々に頭打ちになる。「払うだけ払って、対応する見返りが追いつかない」という構造になりがちです。

低すぎると今度は法人税が待っている

では、報酬を下げて会社に利益を置いておく戦略はどうでしょうか。

中小企業の法人実効税率はおよそ34%。売上から経費を差し引いた利益に、確実に課税されます。「個人で受け取らずに会社に置けば節税できる」という発想は、半分正解で半分間違いです。

結局のところ、報酬を高くしても低くしても、どこかで税金がかかる。この構造が、役員報酬の設計を難しくしている本質です。

黄金比の正解は「中間報酬+経費の最大化」

では、どうすれば手取りを増やせるのか。答えは意外とシンプルです。

「報酬は中間に設定して、合法的な経費を徹底的に積み上げる」——これが、税理士の間でよく語られる黄金比の考え方です。

個人の手取りに課税されるのではなく、会社の経費として処理できるものを増やせば、その分だけ実質的な可処分所得が増えます。しかも法人税の節税にもなる。一石二鳥の設計です。

年500万円を積み上げる3つの手法

具体的に、どんな経費を活用できるのかを見ていきましょう。

役員社宅は、インパクトが最も大きい手法のひとつです。会社が物件を借り上げ、社長に転貸する形を取ります。社長は市場家賃よりはるかに安い賃料を会社に支払い、差額は福利厚生費として法人が負担します。家賃20万円の物件なら、社長の実質負担が数万円で済むケースもあります。

出張日当は、旅費規程を整備することで活用できます。出張時に支払われる日当は、受け取る側に所得税がかかりません。月に数回の出張があれば、年間で数十万円の非課税収入として機能します。

研修・セミナー費は、経営に関係する学びへの支出をしっかり経費化することです。経営塾、業界の勉強会、資格取得の費用——目的が明確であれば法人の経費として認められます。

これら3つを丁寧に設計すれば、年500万円の経費を積み上げることは現実的な目標です。実効税率30%換算で約150万円の節税効果になります。報酬の金額を変えることなく、手取りを増やせる設計です。

「ざっくり」やると税務調査で刺される

ここで、重要な注意点をお伝えします。

役員社宅を活用する場合、社長が会社に支払う家賃の額は、国税庁の通達に定められた計算式で算出しなければなりません。「家賃の半額を払えば大丈夫」という感覚でやっていると、税務調査で問題になります。

実際に、「なんとなく安い賃料を設定していた」社長が、調査で追徴課税を受けたケースは少なくありません。計算式は固定資産税評価額や床面積をもとに算出するため、正確な数値を税理士に確認しておく必要があります。

出張日当も同様で、旅費規程が整備されていないと経費として認められません。口約束や「なんとなく支払っている」状態では、税務調査のリスクが高まります。

決算前に一度、設計を見直してみてください

役員報酬の設定と経費設計を見直す最大のチャンスは、毎期の決算が終わって翌期の報酬額を決める前です。一度決めた役員報酬は基本的に期中で変更できないため、年度の変わり目を逃すと1年間その設計で動き続けることになります。

社宅制度や旅費規程をまだ整備していないなら、今期の決算が終わったタイミングで税理士と一緒に設計を見直してみてください。「報酬を変えずに手取りを増やす方法はありますか?」——この一言から、年150万円の節税設計が始まることもあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。