先日、法人で不動産を3棟持つ社長からこんな相談を受けました。
「3年かけて物件を買い増してきたんですけど、役員報酬はずっと変えていなくて。何か問題ありますか?」
正直に答えると、「問題大ありです」でした。
不動産を買い増した瞬間、報酬の最適額はずれている
法人で不動産を持つと、毎月の家賃収入が法人の売上として積み上がっていきます。1棟、2棟、3棟と増えるにつれて、法人の所得は着実に膨らんでいく。
ここで多くの社長が見落とすのが、「法人に残る利益」と「役員報酬として受け取る金額」のバランスです。不動産収益が増えてもそのまま役員報酬を据え置いていると、法人側に課税が集中します。
法人の所得が800万円を超えると、実効税率は約34%になります。一方、個人側では所得が増えるにつれて所得税と住民税を合わせた税率が最高55%まで上がります。
この「34% vs 最高55%」という差を理解せずに報酬設計をしていると、知らないうちに税金を余分に払い続けることになるのです。
年間200万円の差が生まれる仕組み
具体的なイメージで考えてみましょう。
不動産が1棟のうちは、法人の所得規模もそれほど大きくなく、役員報酬を据え置いても影響は限定的です。ところが3棟になり、年間の賃料収入が合計で3,000万円規模になってくると話が変わってきます。
適切に役員報酬を引き上げておけば、法人側の所得を圧縮しながら、個人の税率が跳ね上がらないラインで受け取ることができます。このスイートスポットを外すと、どうなるか。
法人に所得が残りすぎれば34%で課税され、報酬を引き上げすぎれば個人が高税率ゾーンに入ります。どちらに転んでも余分な税金が発生します。この差が年間200万円規模になるケースは、不動産3棟以上を法人で持つ社長なら珍しくありません。
「高すぎても低すぎても損」という発想が大切
役員報酬というと、「できるだけ多く取れば節税になる」と思っている方も少なくありません。しかし、これは半分正解で半分間違いです。
役員報酬を増やせば法人の所得は減り、法人税は下がります。ただし個人の所得が増えると、所得税・住民税・社会保険料の合計が跳ね上がります。逆に役員報酬を低く抑えると、法人の利益が増えて法人税の負担が重くなる。
最適なのは、この二つの負担の合計が最も小さくなるポイント。これが「スイートスポット」です。不動産収益が増えるほど、このスイートスポットは上にずれていきます。毎年の収益規模に合わせて、定期的に見直す必要があるのです。
見直しができるのは「年に一度だけ」
ここが最も見落とされやすいポイントです。
役員報酬は、原則として事業年度が始まってから3ヶ月以内にしか変更できません。これを「定期同額給与」のルールといいます。期中に変更してしまうと、その差額分は法人の経費として認められなくなります。
つまり、タイミングを逃すと1年間ずっと最適でない報酬設計で走り続けることになります。3月決算の会社なら6月まで、12月決算なら3月まで、という形で自社の変更期限を把握しておくことが重要です。
毎期の決算後に、報酬を見直す習慣を
不動産を持つ社長に特におすすめしているのが、「決算が終わったタイミングで必ず報酬のシミュレーションをする」習慣です。
前期の実績をベースに今期の家賃収入の見通しを立て、法人の所得がどのくらいになりそうかを把握した上で、役員報酬の最適額を計算し直す。この流れを毎年繰り返すだけで、知らないうちに払い続けている余分な税金を防ぐことができます。
不動産を3棟以上持ちながらも役員報酬をここ数年変えていないなら、今期の期首から3ヶ月以内に一度シミュレーションしてみてください。その小さな見直しが、年間数百万円の差になることは珍しくありません。専門の税理士に相談する際は、「法人の不動産収益込みで最適報酬を試算してほしい」と一言添えると、話が早く進みます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。