先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「妻が経理や電話対応を手伝ってくれているんですが、給料を払うと何か問題になりますか?」
この質問を聞いて、正直もったいないと思いました。適切な手続きを踏めば、奥さんへの給与を法人の損金として全額計上できるだけでなく、年間240万円の経費化と所得分散の二重効果が得られる可能性があるからです。しかも、この制度は完全に合法。税務署が自分から教えてくれないだけで、知っているかどうかで年間の税負担が大きく変わります。
役員にすると何が変わるのか
個人事業主が配偶者へ給与を払う場合は「青色事業専従者給与」という制度で、制約がいくつかあります。ところが、法人(会社)の場合は話が違います。
正式に役員として登記し、実際の業務を担当させ、適正な報酬を設定すれば、その給与は全額が法人の損金になります。月20万円の役員報酬であれば、年間240万円が丸ごと経費として認められる計算です。
具体的な節税効果を数字で見る
月20万円の役員報酬を奥さんに設定した場合、どれくらい得になるのか整理してみましょう。
まず法人税の削減効果。年240万円が損金に加わると、法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率を約30〜35%とすれば、年間72〜84万円の節税になります。
さらに、社長個人の課税所得が下がることで所得税率が低下します。年収が高い社長ほどこの効果は大きく、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%です。給与を奥さんに分散することで、世帯全体の税負担が一段と下がります。
2つの効果を合算すると、年間100万円を超える節税になるケースも珍しくありません。
3ステップで役員にする
手続き自体はシンプルです。順番に確認していきましょう。
ステップ1:株主総会で役員選任を決議する
役員にするには正式な手続きが必要です。株主総会(または取締役会)で奥さんを役員として選任する決議を行い、議事録を作成します。この書類は税務調査でも証拠になりますので、きちんと保管しておきましょう。
ステップ2:実際の業務を担当させる
ここが最も重要なポイントです。名前だけ役員に載せる「名義役員」は認められません。経理補助、顧客対応、SNS運用、社内の管理業務など、会社の実務に具体的に関与してもらう必要があります。業務日報や出勤記録をつけておくと、実態を示す証拠として有効です。
ステップ3:適正な報酬額を設定する
月20万円はあくまでも一例です。担当業務の内容や業界水準から見て「適正」な金額である必要があります。市場相場とかけ離れた高額報酬は税務調査での指摘リスクが上がりますので、最初は保守的な金額に設定し、実績を積んだうえで見直すのが堅実です。
絶対に知っておきたい注意点
この節税手法にはいくつかの落とし穴があります。
業務実態のない名義役員は、税務署に損金算入を否認されるリスクがあります。奥さんがフルタイムで別の職場に勤めている、会社業務に一切関与していない、報酬の支払い実態がない——こういったケースは要注意です。
また、役員報酬には「定期同額給与」のルールがあります。期首から3ヶ月以内に金額を決定し、事業年度中は原則として変更できません。途中の増額・減額は損金として認められませんので、期初の設定が肝心です。
もう一点、奥さんの確定申告と社会保険の扱いも確認が必要です。給与を受け取れば奥さんにも所得が生じ、場合によっては扶養から外れます。社会保険料の増加分も含めてトータルで試算したうえで判断しましょう。
今期中に動くべき理由
奥さんがすでに会社の仕事を手伝っているのに、まだ役員登記をしていないなら、今すぐ動く価値があります。節税効果が年間100万円規模になることを考えると、税理士への相談費用や登記費用を差し引いても十分すぎるほどリターンがあります。
すでに役員になっているケースでも、報酬額の設定根拠や業務実態の記録が曖昧なままなら、今期中に整備しておくのをおすすめします。税務調査は「来るかもしれない将来」の話ですが、書類の整備は今日からできます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。