先日、都内でアパートを2棟所有している社長から、こんな相談を受けました。

「個人で物件を取得して、そのうち会社に移そうと思っているんですが、どんな手続きが必要ですか?」

この質問を聞いた瞬間、正直に言うと「少し遅かったかもしれない」と思いました。理由は、これから説明します。

個人→法人への移転に、想定外のコストが潜んでいる

不動産を個人名義から法人名義に移す場合、売買や現物出資といった形をとることになります。そのとき発生するのが、不動産取得税と登録免許税の「二重払い」です。

個人で取得したときにすでに払っている税金を、法人へ移転するタイミングでもう一度払う形になります。物件の規模や評価額によっては、この移転コストだけで数百万円——場合によってはそれ以上になることも、珍しくありません。

「節税しようと思って動いたのに、余計なコストを払う結果になった」という矛盾に、気づいていない社長が意外と多いのです。

個人と法人、税率の差は思った以上に重い

仮に年間2,000万円の家賃収入がある場合を考えてみましょう。

個人で受け取れば、給与や事業所得と合算されて所得税がかかります。高所得者であれば住民税と合わせた実効税率が最高55%に達することもあります。

一方、法人で受け取れば、法人実効税率は約34%。同じ2,000万円の収入でも、その差は年間400万円以上になるケースがあります。

10年間保有し続けたとしたら、累計で4,000万円の差。これは誤差ではなく、経営判断として非常に重い数字です。

結局、「順番」がすべてを決める

法人化と不動産取得は、「どちらが先か」が極めて重要です。

最初から法人で物件を取得すれば、家賃収入は法人の売上として計上され、役員報酬の設計次第で所得を分散することも可能になります。修繕費・減価償却・保険料なども法人経費として計上しやすく、トータルの税負担を大幅に下げられる可能性があります。

しかし順序を誤ると、二重の税コストを払った上に、低税率のメリットを享受できる期間が後ろにずれ込みます。「あのとき最初から法人で買っていれば」という後悔は、あとから取り戻せません。

ただし、「法人化すれば必ず得」でもない

ここで一つ注意点があります。法人化のタイミングが早ければ早いほど良い、というわけではありません。

法人には維持コスト——社会保険料、税理士費用、法人住民税の均等割など——が毎年かかります。収益規模が小さい段階では、個人のままのほうが合理的なこともあります。

「法人化=節税」という単純な話ではなく、物件数・収益規模・既存の法人の有無・相続対策の要否など、複数の要素を組み合わせて判断する必要があります。それでも「これから不動産投資を始める」という段階であれば、最初に法人の器を作ってから物件を取得するルートを、真剣に検討する価値は十分にあります。

動き出す前に、一度立ち止まってほしい

不動産投資を検討しているこの段階こそ、税理士に相談するベストなタイミングです。「個人でひとまず動いてから、後で移せばいい」という考えは、数百万円単位のコストになって返ってくることがあります。

後回しにするほど選択肢は狭まります。不動産を買う前に、まず「法人で取得すべきか」を専門家と確認する——それだけで、数年後の手取りが大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。