先日、賃貸物件を数棟持つ製造業の社長から、こんな相談が届きました。「不動産の収益が年間600万円くらいになってきたんですが、法人化した方がいいって聞いて。実際どうなんでしょう?」

結論から言うと、600万円はひとつの「節税の分岐点」です。この水準を超えると、個人で持ち続けることによる税負担がかなり重くなります。今日はその理由を、具体的な数字で説明していきます。

給与が高い社長ほど不動産収益に高い税率がかかる

個人の不動産所得は「総合課税」という仕組みで課税されます。給与所得や事業所得と合算されて、ひとつの大きな所得として税率が決まる方式です。

つまり、役員報酬をすでに受け取っている社長にとっては、不動産収益がそのまま「上乗せ分」になります。所得が高いほど累進税率の上位ゾーンに乗っているため、不動産収益の1円ひとりが40〜55%の税率で課税されることも珍しくありません。

仮に年間600万円の不動産収益が55%の税率ゾーンに乗ってしまうと、税負担だけで330万円。手元に残るのは270万円しかありません。「稼いでも半分以上が税金で消える」という状況が、収益の大きな社長ほど起きやすいのです。

法人化すると実効税率が約22%になる

法人に不動産を移すと、課税のルールがまったく変わります。

中小企業の法人税は、所得800万円以下の部分であれば実効税率が約22%です。個人の最高税率55%と比べると、30ポイント以上の差があります。

年600万円の収益に対して、個人と法人の税率差が約15〜30%あるとすると、差額で年間90万円〜180万円の節税効果になる計算です。10年運用すれば、それだけで900万円以上の差が生まれることもあります。

「でも法人を作ると維持費がかかるんじゃ?」という声もよく聞きます。確かに、税理士報酬や登記費用、法人住民税の均等割など、年間30〜50万円程度のランニングコストはかかります。それでも、収益が600万円を超えている場合は節税効果の方が確実に上回ります。「維持費で損をする」という心配は、このレベルになればほぼ当てはまりません。

動き出すべき3つの条件が揃ったとき

では、具体的にどのタイミングで動き始めるべきか。次の3つが重なったときが目安です。

不動産収益が年間500万円を超えてきたとき。給与と合算した所得が高く、税率が40%以上のゾーンに入っているとき。そして、今後も不動産を買い増す予定があるとき。

この条件が揃っているなら、「いつか法人化を」ではなく、「今期か来期に動く」ことを具体的に検討してください。法人化には物件の移転手続きや税務上の準備が伴うため、着手から完了まで数ヶ月かかります。「やろうと思っていたら決算が迫っていた」というパターンが非常に多いのです。

見落としがちな「移転コスト」

ここで一点、注意点を挙げておきます。

個人名義の物件を法人に移す際には、不動産取得税や登録免許税が発生します。ローンが残っている場合は金融機関の同意が必要になるケースもあり、想定外のコストや手間がかかることがあります。

「節税になる!」とすぐに飛びつくのではなく、移転コストと中長期の節税効果を比較した試算を先に行うことが大切です。

また、既存物件はそのままにして、新しく購入する物件だけ法人名義にするという方法もあります。移転コストを避けながら、段階的に法人での資産形成に切り替えていく。これが現実的な第一歩になるケースも少なくありません。

まず今期中に、一度シミュレーションを

「うちは該当するかな?」と思った方は、今の不動産収益と役員報酬を合算した場合の実効税率を確認してみてください。確定申告書を手元に置いて、税理士に「個人と法人、どちらが有利か試算してほしい」と相談するだけで、方向性はかなり見えてきます。

法人化は一度やると取り消しにくい判断です。それでも、タイミングを逃して個人課税のまま何年も持ち続けることも、積み重なれば大きなロスになります。収益が600万円に近づいているなら、今期中に一度、数字を動かしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。