「業績も上向いてきたし、そろそろ自分の報酬を上げようか」

そう思い立って、5月か6月に役員報酬を増額した社長は、今すぐこの記事を読んでください。悪意はまったくないのに、税務調査で数百万円単位の追徴が発生するケースが後を絶たないからです。

愛知の製造業社長に起きたこと

業績が好調だった愛知の製造業A社長は、5月に役員報酬を月50万円増額しました。会社の利益が増えているのだから当然だ、という感覚だったと思います。そのまま2年が経ち、税務調査が入りました。

調査官が確認したのは、役員報酬の変更タイミングです。5月の増額は、その事業年度の「途中」に当たる。つまり、期中の増額分は損金として認められない、と判断されました。

否認された金額は、3年分で約1,800万円。そこに過少申告加算税と延滞税が加わり、追徴総額は700万円を超えました。「業績が良くなったから報酬を上げた」というごく自然な行動が、これほどの事態を招いてしまったのです。

なぜ「期首から3ヶ月以内」が絶対ルールなのか

法人税法では、役員報酬を損金に算入するために、定期同額給与という考え方があります。毎月同じ金額を支払い続けることで、初めて全額損金になる仕組みです。

そして、この金額を変更できるのは、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に限られています。4月決算の会社なら5月から7月の間、3月決算の会社なら4月から6月の間に変更の決議を行い、その後は年度末まで金額を固定する必要があります。

このルールが設けられている背景には、「決算が近づいてから都合よく報酬を増やして利益を圧縮する」という行為を防ぐ目的があります。だからこそ、変更できる時期が厳格に定められているのです。

期中に変更したらどうなるのか

たとえば3月決算の会社で、10月に役員報酬を月30万円増額したとします。この場合、10月から翌3月の6ヶ月分、つまり180万円が損金として認められません。

1年で180万円、3年遡られれば540万円。これが高税率の法人税・地方税にかかってくると、実際の追徴税額は200万円以上になることも珍しくありません。さらに加算税と延滞税が上乗せされます。

税務調査で修正申告に至る割合は、実に92%と言われています。調査が入ればほぼ確実に何かが指摘される、というのが現実です。そして役員報酬の変更タイミングは、調査官が真っ先に確認するポイントのひとつです。

合法的に期中で変更できるケースも存在する

ただし、例外がないわけではありません。業績が著しく悪化した場合、いわゆる「業績悪化改定事由」に該当すると認められれば、期中でも報酬を減額できます。コロナ禍で売上が激減したような状況です。

ただしこれは減額のみが対象で、増額には適用されません。しかも「著しく悪化」の判断基準は厳しく、少し業績が落ちた程度では認められないケースがほとんどです。

また、役職変更に伴う改定も例外として認められますが、これも実態が伴っていなければ否認されます。

今すぐ確認すべき3つのポイント

心当たりのある社長は、以下の3点を確認してください。

  • 変更した月はいつか:期首から3ヶ月を超えていれば要注意
  • 変更前後で金額は一定か:変更後に途中で再び変えていないか
  • 議事録は残っているか:株主総会や取締役会の決議録がなければ、変更の正当性を主張できない

議事録がないまま報酬を変えていた、というケースも見受けられます。税務調査では書類の有無が大きく影響するため、変更の経緯を文書で残しておくことが不可欠です。

来期の変更に備えて今から動く

今期の変更がすでに期中だった場合、残念ながら今からルールに合わせることはできません。ただ、来期に向けて今から準備することはできます。

次の期首から3ヶ月以内に、適切な手続きで変更を行う。そのためには、今期の決算見込みをもとに報酬水準を検討し、期が変わったタイミングで株主総会の議事録を残す、という流れを整えておくことが重要です。

役員報酬は、節税の観点からも非常に有効なツールです。だからこそ、ルールを正確に理解した上で活用したい。顧問税理士と一緒に、毎年の期首に報酬水準を見直す習慣をつけることを、強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。