先日、年商10億円を超える製造業の社長から、こんな言葉をいただきました。 「不動産は10年前から個人で買い続けてきたんですが、何かまずいですか?」

決算書を拝見して、すぐに事情がわかりました。役員報酬が年間5,000万円ある社長が、個人名義で8棟の賃貸物件を保有していたのです。 家賃収入だけで年間800万円。一見、悪くない資産形成に見えます。でも、税計算をすると話が変わってきます。

役員報酬+家賃収入で「合算課税」の怖さ

個人が不動産収入を得た場合、それは「不動産所得」として給与所得(役員報酬)に合算されます。 もともと高い報酬に、さらに800万円の家賃収入が積み上がると、所得税・住民税の最高税率55%の対象になってしまうのです。

800万円の家賃収入に55%の税率がかかると、税額はざっくり440万円。 実際には経費控除があるので正確にはもう少し下がりますが、「半分以上が税金で消える」という状況が起きがちです。これは、稼いでいるのに手元に残らないという最悪のパターンです。

法人で持てば実効税率は約34%

同じ800万円の家賃収入を、法人(自分の会社)で受け取ると何が変わるか。 法人の実効税率は中小企業で約34%です。税額はおよそ272万円。個人保有との差は、年間170万円近くになります。

10年単位で考えると、この差は1,700万円。物件を売却するタイミングの違いも合わせると、生涯で数千万円規模の差につながることもあります。 役員報酬が高い社長ほど、個人で不動産を持つコストは大きい。これが「年500万円損する」と言われる背景です。

法人保有のもう一つの武器——減価償却

法人保有には、税率の差以外にも大きなメリットがあります。それが「減価償却の法人損金算入」です。 建物の取得価格は、法定耐用年数に応じて毎年経費として計上できます。法人ではこの減価償却費を損金として使えるため、法人の課税所得を大きく圧縮できます。

たとえば1億円の建物を法定耐用年数22年の木造で取得した場合、年間の減価償却費は約450万円。 この450万円を損金に計上すると、税率34%で計算すると年間153万円の節税効果になります。個人でも減価償却は使えますが、税率が55%に達する社長が個人保有した場合と比べると、法人活用のほうが設計の自由度ははるかに大きいです。

「統合節税」という発想

役員報酬の設計と不動産保有の形態を、別々に考えている社長は多いです。 でも本来、この二つは「一体設計」で考えるべきテーマです。

役員報酬が高い→個人の税率が高い→不動産を個人で持つコストが跳ね上がる。この連鎖を逆手にとって、役員報酬・法人保有・減価償却をセットで設計する考え方を「統合節税」と呼びます。

たとえば、役員報酬をやや下げて法人に利益を留保しながら、その法人で不動産を取得する。 法人の減価償却で利益を圧縮しつつ、将来の相続対策にも備える——こうした複合的な設計が、年500万円以上の節税差を生み出します。

注意点:法人への移転はタイミングと順序が大事

個人名義の不動産を後から法人に移す場合は、「個人→法人への譲渡」に伴う課税(所得税・不動産取得税・登録免許税)が発生します。 すでに個人で複数棟を持っている場合は、「今すぐ移す」ではなく「次に買う物件から法人で取得する」という段階的アプローチが現実的なことも多いです。

このあたりの判断は、物件の状況・ローンの有無・含み益の大きさなどによって変わるため、税理士との試算が欠かせません。

役員報酬が年収1,000万円を超えているなら、次の物件を個人で買う前に一度、法人保有のシミュレーションを税理士に依頼してみてください。その1枚の試算書が、10年分の節税を変えるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。