先日、来年の引退を検討している製造業の社長から相談を受けました。「法人からの退職金が1億円を超える見込みなんだけど、税金がいくらかかるのか怖くて調べられていない」というものです。
話を聞いていくと、顧問税理士からは「相当な税額になりますよ」と言われたきり、具体的な対策はまだ何もしていないとのこと。引退まで1年を切った時点でのご相談でした。
退職金の「2分の1ルール」が落とし穴になる
退職金には「退職所得控除」という優遇制度があります。勤続年数に応じて一定額が非課税になる仕組みで、20年以上勤続した場合は800万円+70万円×(勤続年数−20年)が控除されます。
ただし、控除後の残額をそのまま課税するのではなく、いったん2分の1に圧縮してから累進税率を掛ける計算になります。「半分になるならそれほど怖くない」と思われがちですが、退職金の規模が大きいと話は別です。
仮に退職所得控除後の残額が6000万円あれば、3000万円に最高税率がかかります。実際の税負担が1000万円を超えるケースも決して珍しくなく、「こんなに取られるとは思わなかった」という声をよく聞きます。
法人で収益不動産を「先に仕込む」発想
そこで有効になるのが、法人による収益不動産の活用です。退職金を受け取る前の現役期間中に、法人でマンション一棟や商業物件を取得しておくと、大きく2つの効果が生まれます。
1つ目は、毎年の減価償却費による法人税の圧縮です。建物部分は税務上の資産として毎年少しずつ費用計上でき、その分だけ法人の課税所得を下げられます。たとえば2億円の物件なら、構造や耐用年数によっては年間数百万円の減価償却が発生します。
2つ目は、退職後も続く安定した手取り収入です。退職金を受け取った後も、法人に不動産が残っていれば家賃収入が入り続けます。退職後の生活設計において、これは非常に大きな安心材料になります。
20年スパンで「3000万円以上の差」が出る理由
現役中から不動産を仕込んだ場合と、退職金だけ受け取って終わりにした場合を比べると、20年間の累計手取りに3000万円以上の差が生まれるケースがあります。
内訳を整理すると、減価償却による毎年の法人税節税(仮に年100万円なら20年で2000万円)、退職後の家賃収入の積み上げ、そして相続時の評価額圧縮効果(不動産は市場価格より相続税評価額が低い)という3層構造になります。
もちろん物件の規模や立地、勤続年数、役員報酬の設定によって効果は変わります。「うちには関係ない」と決めつけず、一度は専門家にシミュレーションしてもらうことをお勧めします。
「退職してから考える」では手遅れになる
このスキームには絶対に外せない条件があります。効果を最大化するには、現役社長のうちに動き出すことが大前提だという点です。
退職後に「やっておけばよかった」と気づいても、減価償却の恩恵を受けられる期間が大幅に短くなります。また、法人の形態変更や不動産の取得・登記には一定の時間もかかります。引退の5〜10年前から準備を始めるのが理想で、50代の社長であれば今すぐ動き出すことが最大のコスト削減策になります。
不動産×退職金の組み合わせは「設計力」が全て
退職金の受け取り方と不動産収益の組み合わせは、正しく設計できれば節税と資産形成を同時に実現できる強力な手段です。一方で、物件の選び方を誤ったり、法人の規模感に合わない借入を抱えると、逆効果になることもあります。
まだ「引退は先の話」と思っているなら、それこそ準備を始める絶好のタイミングです。今期の決算が近いなら、顧問税理士に「退職金と不動産を絡めた長期の出口戦略を相談したい」と一言投げかけてみてください。その一言が、数千万円の差を生む可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。