先日、都内で製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「顧問の不動産業者から地方の高利回り物件を勧められているんですが、税金的にどうですか?」と。
利回り10%超、価格も都心物件の3分の1以下。数字だけ見れば魅力的です。でも私は少し立ち止まって、こう聞き返しました。「その物件、5年後・10年後のことも含めてシミュレーションしてみましたか?」
「高利回り=節税に有利」は本当か?
地方の高利回り物件は、毎月の家賃収入が多いぶん、法人の売上(益金)に計上される金額も大きくなります。
仮に年間家賃収入が600万円の物件を持てば、そのまま法人の課税所得を600万円押し上げます。もちろん減価償却費や修繕費などの経費を差し引けるので、最初のうちは節税効果が出やすい。それ自体は正しい理解です。
ただし、落とし穴があります。
地方の中古物件は建物の残存耐用年数が短いケースが多く、減価償却が3〜5年で終わってしまうことも珍しくありません。その後はどうなるか。毎年600万円の家賃収入が、ほぼ丸ごと課税対象の益金として残り続けます。
「節税のために買った物件が、数年後には税金を増やす装置になっていた」——これが地方高利回り物件の典型的な失敗パターンです。
都心の低利回り物件が「将来の武器」になる理由
一方、都心の物件は利回り3〜5%程度が一般的です。地方と比べれば毎年のキャッシュフローは地味に見えます。
しかし都心物件には、地方物件にはない強みがあります。それが「含み益」です。
都心の優良立地は、長期保有しても資産価値が落ちにくく、むしろ上がるケースもあります。つまり、購入時より高く売れる可能性を持ちながら、会社のバランスシートに資産として鎮座し続けるわけです。
ここで重要な戦略が見えてきます。売却のタイミングを、役員退職金の支給と合わせるという手法です。
役員退職金は法人の損金になるため、売却益(≒特別利益)と相殺することができます。たとえば物件売却で5,000万円の売却益が出たとしても、同じ期に5,000万円の役員退職金を支給すれば、法人税の課税所得を大幅に圧縮できます。
毎年コツコツ節税するのではなく、引退・事業承継のタイミングで「大型節税」を一発決める。これが都心低利回り物件の本当の使い方です。
会社のフェーズで、選ぶ物件が変わる
この話をすると「じゃあ都心物件一択ですか?」と聞かれます。そうとも言い切れません。
会社の状況によって、どちらが合うかは変わります。整理するとこうなります。
- 今すぐ課税所得を減らしたい(黒字が大きく、今期の納税額を抑えたい)→ 地方高利回り物件の短期減価償却が効く場合もある
- 10〜20年後の出口を見据えて資産形成したい(役員退職や事業承継を計画中)→ 都心物件の含み益戦略が有効
大切なのは、「不動産を買うかどうか」ではなく、「どのフェーズで、どんな目的で買うか」を先に決めることです。
年商3億円の会社と年商30億円の会社では、節税に使える選択肢も、リスク許容度も全然違います。「社長仲間がやっているから」という理由だけで飛びつくのは危険です。
数字より先に「戦略」を決めてほしい
不動産業者や金融機関は、当然ながら物件を売ることが仕事です。節税効果を強調したシミュレーションを持ってくることもありますが、それは物件を買った後、減価償却が終わった後の姿まで丁寧に教えてくれるとは限りません。
投資物件を検討する前に、まず自社の税理士に「今の会社のフェーズで、節税の優先順位はどこにあるか」を確認しておくことを強くおすすめします。
毎年の節税を積み重ねる戦略なのか、将来の大型節税に備える戦略なのか。その軸が決まってから、物件の種類・エリア・規模を選んでいく順番が正解です。
不動産節税は、正しく使えば強力な手段になります。ただし、戦略なき購入は「節税のつもりが増税装置」になるリスクと隣り合わせです。今期の決算を前に、一度立ち止まって税理士と話してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。